書評:ITによるファシズム

このエントリーをはてなブックマークに追加

『ビッグデータという独裁者―「便利」と引き換え「自由」を奪う』
(マルク・デュガン、クリストフ・ラベ共著、鳥取絹子訳/筑摩書房)

『ビッグデータという独裁者―「便利」と引き換え「自由」を奪う』(マルク・デュガン、クリストフ・ラベ共著、鳥取絹子訳/筑摩書房/1500円+税)

ヨーロッパのIT企業のCEOが出張でサンフランシスコを訪れた。飛行機を降り、スマートフォンの電源を入れた途端、宿泊先のホテルにほど近い寿司屋がサーモンを入荷した、という情報が送られてくる。

特に問題があるとも思えないこの出来事は、現代人が置かれている不気味な現状を示唆している。CEOの旅行日程、目的地、宿泊先、さらには彼の好物がサーモンだという事実が筒抜けになっているのだ。

こうしたことはもはや誰にでも起こり得る。あなたや私の個人的なデータ、年収、購入した商品、視聴した映像、その他様々なデータがどこかの巨大サーバーに蓄積され、分析され、企業のマーケティングに利用されているのだ。

多くの人は薄気味悪さを感じながらも、これが人類を脅かす危機の前兆だとは考えないだろう。これがテロや自然破壊の危険とは異質の、だが同程度に恐ろしい未来をもたらす危険を孕んでいると言っても、何を大げさな、と思うに違いない。そうした人々に是非本書を読んで頂きたい。この流れの延長線上にあるのは、人類を支配・管理するビッグデータが跋扈する未来である。

携帯に内蔵されたGPS情報は、所有者の現在位置をメートル単位で特定する。その行動パターンの分析は、広告表示のみならず、犯罪予防にまで利用される。米国では、前科がなくても潜在的に犯罪に手を染める可能性がある市民を特定するシステムが実際に使われた例がある。孤独なネット社会において人々に癒しを与える友人ロボットが研究されている。「友人はフェイスブックの150人と一人のロボット」というゾッとする状況が現実になる。こうした中で、SNSを通してせっせと人々のデータが集められていく。そこに透けて見えるのは索漠とした未来社会だ。

著者はフランス人ジャーナリストで、綿密な取材を元に執筆している。紹介されている技術やエピソードは未来の空想ではなく、すでに使われているか、近い将来実用化されると目されているものばかりだ。便利さの仮面を被ったこうした技術は人々の生活を締め付け、いまだかつてない管理社会を実現するという。勝ち組になるのはほんの一握りの巨大企業だ。

もはや政府は無力だ、と著者は言う。技術についての知識はすべてIT企業が握り、政府はそれに追いつけないからだ。だが、そうしたIT企業も早晩コントロールを失う。自分で思考する人工知能が人間を超える速度で進化し、管理を推し進めていくからだ。そこにあるのは奴隷化した大衆と、機械に主導権を奪われておろおろするばかりの支配層、そして黙々と仕事を続けるコンピュータだ。SFのような悪夢がすでに現実化しつつあることを、本書ははっきりと突きつける。

◆岩下 慶一(いわした・けいいち)
ジャーナリスト、翻訳家。ワシントン大学コミュニケーション学部修士課程修了。米国の文化・社会をテーマに執筆を行っている。翻訳書に『みんな集まれ!ネットワークが世界を動かす』『幸せになりたいなら幸福になろうとしてはいけない』(ともに筑摩書房)、『マインドフル・ワーク』(NHK出版)などがある。

2017年7月28日(金)13:27

alternaショップ
ページの先頭に戻る↑