牧草地を森に還す、ユニークなブナの森づくり (1)

廃業した和田峠スキー場跡地の植林活動(長野県長和町)

国有林の返還は、森になってから

森のライフスタイル研究所では、長野県長和町にある和田峠スキー場跡地でもカラマツの植林を行ってきたが、ここも同様で町が国有林を借りてつくったスキー場が廃業したため、国に返還するためにゲレンデにカラマツを植えた。植林自体は数年前に完了したが(一部、シカの食害に遭い再植林が必要なエリアもあるのだが…)、植えただけでは返還することはできない。植えた苗木がある程度成長し、草地ではなく林地とみなされる必要がある。しかし、どこまで成長したら林地とみなされるのか明快な基準はない。以前、林野庁に問い合わせたところ、地域の森林管理局が林地と判断したら返還できるとのことだった。

カヤの平高原牧場のブナ移植作業(長野県下高井郡木島平村)

森林(もり)の里親契約を締結

さて、話が少し脱線したが、カヤの平で行っている森づくりは使われていない牧草地を森に還す活動だ。牧場の周囲にはブナの原生林やカラマツ、ダケカンバなどの森林が広がっているため、当初は放置しておけば種子が飛んできて自然に森に還るのではないかと期待されていた。しかし、10年以上経過しても牧草地のままで、森林にはならなかった。

そこで、木島平村は長野県北信地方事務所に対応策を相談し、長野県林業総合センターの小山泰弘主任研究員(当時)氏が現地に赴いた。調査の結果、牧草の根が厚く層をなしているため、種子が落ちて発芽しても根が土壌まで届かず枯れてしまうことがわかり、この厚い層を剥がして木を植えればきちんと育つ可能性が高いことを突き止めた。しかし、木島平村には広大な牧草地の草の層を剥がすための予算も人手も不足していた。

その後、小山氏は県庁へ異動したが、農学博士でもあることからこの問題に意識を持ち続け、重機を使って表土を剥がし、土壌が露出したところに林縁部にある実生のブナ稚樹を移植する方法を考案し、ボランティアによる森づくり活動として実施可能かどうか、森のライフスタイル研究所に相談を持ち掛けた。団体としても水源地涵養や生物多様性への貢献、地域社会への貢献など意義ある森づくりであると考え、一般市民によるボランティアや企業に働きかけ、未利用牧草地をブナの森に還す活動に取り組むことにした。

そして、2012年に木島平村と「森林(もり)の里親契約」を締結し、2013年から一般参加者によるブナの森づくりを開始した。また、2013年には建材専門の商社である伊藤忠建材株式会社様と木島平村、森のライフスタイル研究所の3者で3年間の「森林(もり)の里親契約」を締結し、企業による森づくりも開始した。同社では、2016年にさらに3年間の契約を延長し、現在も社員によるブナの森づくり活動を続けている。

前置きがだいぶ長くなってしまったので、カヤの平高原のブナの森づくりのユニークな点は次回、ご説明することとする。

つづく

 

フリーランスのコピーライター。「緑の雇用担い手対策事業」の広報宣伝活動に携わり、広報誌Midori Pressを編集。全国の林業地を巡り、森で働く人を取材するうちに森林や林業に関心を抱き、2009年よりNPO法人 森のライフスタイル研究所の活動に2018年3月まで参画。森づくりツアーやツリークライミング体験会等の企画運営を担当。森林、林業と都会に住む若者の窓口づくりを行ってきた。TCJベーシッククライマー。

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