「副業・兼業」解禁、「地方で働く」がキーワード

ビズリーチやグルーヴス(東京・港、池見幸浩社長)、コデアル(東京・千代田、愛宕翔太社長)など、「副業・兼業」を掲載する求人サイトが相次いでいる。案件数や会員登録数は今年に入ってから増加しており、特に首都圏のビジネスパーソンが地方の案件に応募する傾向がみられる。各社は地方創生に結び付けたビジネスを展開、求人サイトから「地方」をキーワードに副業・兼業が広まりつつある。(松島 香織)

募集案件についてビズリーチ会員向けに説明する枝広直幹福山市長(2017年11月都内にて、ビズリーチ)

ビズリーチは、昨年10月16日から19日の3日間、会員1400人を対象に副業に関するアンケートを実施した。83%が「今後、兼業・副業を行ってみたい」、75%が「首都圏以外の地域での兼業・副業に興味がある」と回答している。

広島県福山市は昨年11月から12月にかけて、副業・兼業限定で地域活性化のための戦略推進マネージャーをビズリーチで募集した。当初採用は1人の予定だったが、395人の応募があり、投資や映像制作などの専門スキルを持った首都圏に住む5人を採用している。

ビズリーチの広報担当者は、「地方の副業・兼業案件に対し首都圏のからの応募が多く、ますますこの傾向は強まっていくのではないか」とコメントしている。

■発想の転換から「副業」で地方企業を支える

グルーヴスの鈴木秀逸マネージャーは「特に地方自治体に理解していただき、『Skill Shift』を活用してほしい」と力を込める

グルーヴスは、人材紹介会社と求人企業をつなぐプラットフォームを持つIT企業だ。金融庁が2018年1月に地方銀行が業務として人材紹介業を展開できるよう規制緩和した発表を受け、新生銀行や北洋銀行などの地方銀行グループ会社は同社に総額1億8千万円を出資。地域経済の活性化を支援する役割を担う。

同社が2017年11月にオープンした求人サイト「Skill Shift」は、人材不足に悩む地方企業に都市部の人材を「副業として」引き合わせるサービスだ。

生産年齢人口が減り、人口が都市部に一極集中する傾向にある中、地方の中小企業は人材確保が深刻な問題になっている。地域に人材が少ないことがあり、求人を出してもほとんど応募がないという。単発の実務は外注で補え、継続的な実務は派遣で補うことができる。そういった時に、中核となる人材を副業で募集するというのが「Skill Shift」の考え方だ。

「『副業解禁』とは、一流企業の人事や経営などのスペシャリティのスキルが解放されたということ。地方の中小企業から見ると『この人たちの業務スキルを使っていい』ということになります」と経営企画室の鈴木秀逸マネージャーは話す。

本業がある人材だからこそ、コネクションがあり、集客・販路拡大、プロジェクト紹介などチャンスが生まれやすい。それまで多くの自治体は、人材確保を移住と結びつけて考えていたが、移住だとそれまでの企業に向けた仕事の努力や交友関係が途切れることになる。だが、副業であれば移住の必要はない。

さらに鈴木マネージャーは、「Skill Shift」の利点として、企業にとってイノベーションを起こす人材が入りやすくなり、半年から1年の業務で、地域にとって長期的な関係人口となることを挙げている。

「まだ成立案件は少ないですが、企業側からは、ハローワークに求人を出しても応募が無かったのに、月額3万円程度の副業案件にしたら高度人材の応募が来るようになった、と喜んでいただいています。これがイノベーションのポイントだと考えています」(鈴木マネージャー)

登録者は地方に想いがあるビジネスパーソンが多いという。地方企業からすると新しい人材活用方法であり、人材側からすると新しい副業のカタチとなる「Skill Shift」を、鈴木マネージャーは「新しい働き方のスタンダードにしたい」と意気込む。

■「副業」を対等な取引に、地方で働く選択肢を増やしたい

長崎出身の愛宕翔太社長は「CODEALは自分が自由な働き方をしたいから創った究極のエゴ」と笑う

コデアルは、副業求人プラットフォーム「CODEAL(コデアル)」を運営している。時間単価2500円以上の求人のみを掲載し、契約書等の不安解消については同社が手厚くサポートするなど「対等な取引」にこだわっている。

当初、「時給2500円以上」に難色を示す企業があったが、即戦力を得られるという価値をつけて説得した。愛宕翔太社長は「アルバイトであれば最低賃金が保証されていますが、業務委託で場所を問わずに働く場合そういった法律がありません。法で守られていないのは働く側として対等じゃない」と話す。

同社は「リモートワークで働くをもっと自由に」をビジョンに掲げ創業した。社員の他にテレワークや副業で手伝ってもらうスタッフがおり、「場所を問わずに働くという働き方」自体を事業化・サービス化したらよいのではないかと考えたという。

サービスは2016年から開始し、3月現在、掲載案件は1800件、月に60件が成立している。求人内容は、エンジニア、デザイナー、WEB集客などIT技術に関わるものが7割、PRやカスタマーサポートなどが3割占める。求人・応募とも紹介や口コミでの利用が多く、副業解禁となった今年から利用者が増加しているという。

愛宕社長は現在30歳。学生の頃から環境や社会問題に興味を持ち学生団体を運営し、「何かをやりたい」という気持ちが強かった。場所を選ばずに働ける「副業」は、介護や育児をしている人の収入の安心につながり、地元に仕事がなく都市部で働いている人にとっては、「地元に帰れる」選択肢を提供できると愛宕社長は考えている。

「『働くこと』は働くことだけじゃなく、ライフスタイルをデザインするひとつの要因。やりたいことも出来ず、生活自体がただ働いていることになったらすごい損失だと思います」(愛宕社長)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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