インドネシア住民、石炭火力拡張計画撤退求め控訴へ

国際協力銀行(JBIC)などが融資するインドネシア石炭火力発電事業・拡張計画に対して、環境許認可は不当だとして提訴した地域住民の原告団が5月16日、日本の国会議員に現状を訴えた。石炭関連企業からの投資撤退(ダイベストメント)など、脱炭素化が世界で進むなか、日本政府は官民をあげて石炭火力発電所の輸出を推進している。原告団は計画を止めるためには日本の民意も必要だとして来日した。(オルタナ編集部=二階堂裕)

インドネシア環境フォーラムのドゥウィ・サウン氏(左)、住民訴訟の担当弁護士のラスマ・ナタリア氏

2015年に採択されたパリ協定を中心に、持続可能な世界の実現に向けて、「脱炭素化」の動きが顕著になってきた。COP23(気候変動枠組条約第23回締約国会議)では、イギリスやカナダを中心に脱炭素化を目指す「脱石炭促進連合(Powering Past Coal Alliance)」を形成し、フランス、イタリア、オランダ、メキシコ、アメリカのカリフォルニア州なども参加し、参加国・自治体は36に拡大している。

こうした状況を背景に、欧州・米国の銀行、保険会社、年金基金は石炭関連企業の投資撤退(ダイベストメント)を加速させる。近年、東南アジアの石炭火力発電事業でも欧州の民間銀行の融資団は撤退し出している。

しかし、こういったダイベストメントの動きに逆行し、日本政府や日本企業・金融機関はインドネシアで石炭火力発電事業を進めている。そのうちの一つ、インドネシア西ジャワ州チレボン県では、2つ目の石炭火力発電所が建設されようとしている。

1号機は、国際協力銀行(JBIC)、韓国輸出入銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、日本貿易保険(NEXI)を中心とした協調融資によって約8.5億米ドルの総事業費が賄われ、2012年7月に運転が始まった。

1号機が稼働したことで、多くの住民が事業前より厳しい生活を強いられるようになった。チレボン県の住民たちの主な生計手段は小規模漁業、貝類の採取・栽培・テラシ(発酵小エビのペースト)作り、塩づくり、農業など多岐にわたっているが、1号機の稼働に伴い、漁獲量の減少や、漁場・貝採取場の減少等の影響を受けたという。

2016年12月6日、チレボン石炭火力発電事業の「環境許認可」について西ジャワ州統合投資許認可サービス局(以下、西ジャワ州投資局)局長を提訴。裁判所は、環境アセスメントは、空間計画に反して策定された点、コミュニティの参加を確保せずに行った点などを指摘し、環境許認可の無効を宣言し、西ジャワ州投資局に対して同許認可の取り消しを求める判決を下した。

だが、2017年7月17日に西ジャワ州投資局はチレボン拡張案件の環境許認可を新たに発行した。再びこれに対し、同年12月4日にコミュニティ代表とWALHI(インドネシア環境フォーラム)は提訴したが、中央政府から政令13号が出されたことを背景に、新たに発行されたチレボン拡張案件の環境許認可を認め、一事不再理の原則から本訴訟を棄却した。コミュニティ代表とWALHIは、2018年5月14日に判決の不服申し立てをして控訴した。

こういった環境許認可に関わる問題が存在し、住民たちが訴訟を起こしている最中でも、2022年の運転開始を目指して1号機と同様に、日本企業が関わる協調融資で2号機の建設が推し進められている。

このほど来日した現地NGO・弁護士は5月16日、院内勉強会「石炭火力推進で孤立する日本―インドネシア現地報告から考える―」を開催した。石炭火力発電事業に融資し続ける日本政府と日本企業に対し、「住民や環境への影響を無視してはいけない」と厳しく批判した。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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