映画評『子どもが教えてくれたこと』:困難に寄り添う

芝居が大好きな女の子は、薬剤を注入するリュックを背負って生活している。症状が悪くなっても「愛してくれる人がいれば幸せ」と笑顔を見せる。仏のドキュメンタリー映画「子どもが教えてくれたこと」(2016年)は、がんや腎不全などを患いながら、日常を精一杯生きようとする5人の子どもと家族の姿を見つめたドキュメンタリーだ。人間が本来持っている好奇心や優しさに気づき、困難に向き合っている人にどう寄り添うべきなのかを考えさせられる。(松島 香織)

映画「子どもが教えてくれたこと」は14日から順次公開 (c)Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

8歳の男の子が親友を探して、鼻歌を歌いながら病院内を走り回っている。楽しげなその姿は、表皮水疱症を患い全身は包帯に覆われているとは思えない。シャルルは親友のジェゾンを見つけ、「家に帰りたい」と落ち込んでいればさり気なく励ます。

ピアノを弾いたり、絵を描いたりすることが大好きなテュデュアルは、神経芽腫を患い治療を続けている。病院へ向かう車の中で「化学療法はもうしたくない。ママは化学療法が分かっていないんだ」と呟くが、母親が化学療法を選択するのは自分のことを思い、最善の方法だと信じているからだと分かっている。

イマドは腎臓を患い、治療のため家族とアルジェリアから移住した。一緒に病院へ来た父親に「病院へ来なくてもよくなったら、パパが疲れなくてすむ」と言い、大好きな消防車を見学した様子を興奮気味に母親に話すが、12時間に及ぶ透析の準備をしているうちに、辛くて泣き出してしまう。

アルジェリア生まれのイマドは、治療のためにフランスに移住した (c)Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

感情表現が豊かなカミーユは、神経芽腫を患っているが大好きなサッカーを思いきり楽しんでいる。相手にボールを奪われると、悔しくて泣きそうな表情になり、楽しい時は赤ちゃんのように顔をくしゃくしゃにして、声をあげて笑う。

動脈性肺高血圧症を患うアンブルは、いつも薬剤の入ったリュックを背負っている。家族とピクニックに出かけ、ブランコに楽しそうに乗るが、後ろから押している母親が「大きなお尻ね」というと「ママに言われたくなーい」と笑顔で言い返す。

病気を抱えていたとしても、ユーモラスなやり取りが日常にある。「やりたいことを見つけると、やりたくなるの」という言葉は、子どもたちの純粋な欲求であり、大人たちは彼らが毎日を快適に過ごせるように努力している。ただし、その方法はひとつではなく、正解もない。

アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督は、解決策を示そうとしたのではなく、子どもたちの言葉をそのまま映像にすることを心掛けたという。劇中に流れるフランス語のバラードや英国のロックバンドDovesの曲が、子どもの純粋さや生きる喜びを思い出させる。

14日から東京・シネスイッチ銀座、大阪・シネ・リーブル梅田など、全国順次公開中。

◆「子どもが教えてくれたこと」
監督・脚本:アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン
出演:アンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアル
2016年/フランス/フランス語/カラー/80分/ヴィスタサイズ/DCP
配給:ドマ

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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