中国で環境NGOが急成長、多国籍企業動かす

平坦でない中国のNGO活動の中で、環境NGOのIPEは一貫して環境情報の公開を促進。末端の工場にも「相手にされない」NGOからフォーチュン500企業も頼る存在に成長した。そのカギは賢いターゲット設定に加え、圧力と「協力的アプローチ」、ITの駆使や巧みなデータ活用・広報戦略などにありそうだ。 (北京=斎藤 淳子)

中国のNGO元年は1993年の世界女性会議、寄付金元年は2008年の四川大地震と言われ、民間組織の活動の歴史は浅い。しかし2016年の寄付金総額は前年比約26%増の2.4兆円に上り、日本以上に公益事業への社会的支持は急増している。ただ、寄付先は大手の基金会と政府系慈善団体が圧倒的多数を占め、純粋な民間組織は6%以下と周辺化されている。
しかし、その中で、市民、企業、政府から支持を得つつ影響力を増しているユニークな環境NGOが「公衆環境研究中心(IPE)」だ。2006年の創立以来、一貫して環境情報の公開を軸にした活動を行っている。

IPEの馬軍代表はタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、「中国の環境戦士」とも呼ばれる

工場の汚染データを公開
馬軍(マー・ジュン)代表は「近年は、青い空や透明な水、安全な食べ物を求める市民の想いは強く環境政策への支持も高まっている。政府の環境情報公開の速度も早く、我々の活動空間は
これまでになく広がっている」と語る。
追い風の背後には2015年の「環境保護法」に代表される中央政府の環境改善への本腰を据えた姿勢がある。それに伴い、これまで環境面では面従腹背だった地方政府も大きく変化しているという。
馬代表は「昔は工場に汚染排出データの開示を求めても、相手にされず、何の手立てもなかった」と振り返る。世界の工場として中国が経済成長に邁進した1990─2000年代は汚染排出企業の門は固く閉ざされていた。しかし、汚染は毎日排出される。一体何ができるのか。
IPEが目を付けたのが中国に製造拠点を置く多国籍企業だ。彼らは環境保護を標榜し、他国での環境汚染問題解決の経験もあった。
サプライヤーによる環境違反が暴露され多国籍企業に圧力がかかると、彼らはIPEと接触し、下請け工場に対して環境保護の重要性を説き、汚染排出データの公開や排出管理の改善を求めた。
IPEも工場のモニタリング実施やデータ収集・解析などの技術的支援を提供した。汚染主体に圧力をかけつつも、IPEは単なる衝突ではなく具体的な手立てを提供し、多国籍企業のグリーン化を一歩一歩支援した。この柔軟で現実的な「協力的アプローチ」は、IPEの成功要因の一つだろう。

文・斎藤淳子

※この続きは、オルタナ53号(全国書店で発売中)掲載の特集『We Mean Businessとは? 世界企業/NGOのパワーバランス』でご覧ください。

junkosaito

斎藤 じゅんこ・北京

米国で修士号取得後、北京に国費留学。JICA北京事務所、在北京日本大使館勤務を経て、現在は北京を拠点に共同通信、時事通信、NHKラジオ、中国新聞週刊(Chinanews)日本版などに連載執筆・出演。共著編に『在中国日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由』、『日中対立を超える発信力』など。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..