根源的な問いに向き合う映画「太陽の塔」、上映開始

大阪万博から48年経つ今年、万博会場に唯一残る岡本太郎の「太陽の塔」が、再び脚光を浴びている。改修された塔内部が3月から公開され、9月15日から展覧会「太陽の塔」(あべのハルカス美術館)が、29日から映画「太陽の塔」の上映が始まった。「経済やテクノロジー至上主義へのアンチテーゼを万博のど真ん中に打ち立てた」岡本太郎への共感を語る関根光才監督に、映画に込めた思いを聞いた。(オルタナ編集委員/海洋ジャーナリスト=瀬戸内千代)

©2018 映画「太陽の塔」製作委員会

関根氏は、数年前に初めて太陽の塔の裏側を見て、不気味な暗い太陽の絵に驚いた。「日本中のファミリーが集まる万博で、敢えて闇の面を見せつけた作者には相当な意図があるはず」と興味を持ち、パルコが企画した映画の監督公募に応募した。

著書を読み、関係者に取材し、知的な思想家としての太郎を再認識した関根氏は、「彼が探り当てようとした根源的なことを頭より心で感じ取れる映画にしたい」と考え、幅広い人選で29人に計46時間のインタビューをし、アイヌの歌や岩手の踊り、「縄文の少女」のフィクション映像などを織り交ぜて、112分のドキュメンタリー映画を完成させた。

後半には、原爆、敗戦、原発、巨大防潮堤、帰還困難区域などが次々と登場する。万博に「世界を支える無名の人々」や原爆のキノコ雲の写真を飾った太郎の感性に呼応するような仕上がりだ。

関根光才監督

「どうすれば自分の生(せい)をつかみとれるのか。彼の問いかけは、当時も今も十分には理解されていない。その結果として、人為的なカタストロフィーが起きている。原発事故は、目に見える結果の一例。日本のアートシーンは重大なことから目を背けがちだが、見過ごすわけにはいかない」と、関根氏は語る。

関根氏は、20代でカンヌ国際広告祭の若手監督グランプリを受賞し、その後も短編映画やホンダ、ナイキ、アディダスなど世界的ブランドのCMを多数手がけ、高い評価を得てきた。本作が初の長編ドキュメンタリー映画となる。

エンドロールに表示される「NOddIN(ノディン)」は、関根氏など映像作家たちが、3.11後の日本社会の変遷に責任を感じ、「政治や社会問題をタブーとしない表現をしよう」と立ち上げたアートプロジェクトの名称。ロゴを逆さまにすると「にっぽん」と読める。

映画「太陽の塔」は9月29日から、渋谷・シネクイント、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田などで上映中。順次、全国で公開される。

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瀬戸内 千代

オルタナ編集委員、海洋ジャーナリスト。雑誌オルタナ連載「漁業トピックス」を担当。学生時代に海洋動物生態学を専攻し、出版社勤務を経て2007年からフリーランスの編集ライターとして独立。編集協力に東京都市大学環境学部編『BLUE EARTH COLLEGE-ようこそ、地球経済大学へ。』、化学同人社『「森の演出家」がつなぐ森と人』など。

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