■今までの林業は「引き算」一辺倒の経営
この本が書かれた背景には、苦境に陥っている林業界がある。林業は、木を植えて育てて伐採し、主に木材の材料として販売して利益を得る事業だ。しかし、材価が下落する中で、木を伐ったり、搬出したりするコストを売値から差し引くと林家(森林所有者)の手元に残るお金はごくわずかだ。いや助成金や補助金がないと赤字という場合だってある。むしろ、その方が多いだろう。これでは、林家は伐採後に苗を買って植え、何十年も世話をして森を育てていこうという気にはならない。
というか、やりたくてもできない。こうした中で何とか林業経営を成り立たせようと路網整備や機械化による効率化や列状間伐などコストを下げるための様々な取り組みがなされてきた。
「日本の林業は『引き算』一辺倒での経営に傾斜して、ここしばらくは歩んできたのである。(中略)そうではなくコストダウンの効果を際立たせるためにも、少しでも高く売れる木を育てる。その木が使われるようなマーケットをつくる。そんな『足し算』、あるいは『掛け算』にもつながるような取り組みこそが、今の日本林業には求められている」と本書で赤堀さんが指摘しているように、コストダウンではその場しのぎにはなっても根本的な問題の解決にはならない。
では、どうしたらいいのだろう。その一つソリューションがサブタイトルになっている「木の価値を高める技術と経営」ということになる。
■「林ヲ営ム」の二通りの読み方
本書は、木の価値を高めるための「技術」や「経営」に関する考察や提言と11名にのぼる林業家の取材記事で構成されている。この2つのパートから「林ヲ営ム」ことが立体的に見えてくる。林業や木材業に携わっている人にとっては、木の価値を高めるための指南書として興味深く読める。
また、林業家へのルポタージュの部分は、林業や木材業に直接携わっていない人にとっても林業や木材業のことを知るガイドとなる。森で働き生きている人=林ヲ営ム人の話は、文句なしに面白い。そして、面白い話を引き出せたのは、長年にわたって林業界・木材界を取材して歩いている著者ならではの取材の力だと思う。林業や木材には詳しくないが山村生活に興味がある人や、木で家を建てたいと思っている一般の人にとっても参考となる一冊だ。
■林業は、成長産業よりも持続産業へ
立木を伐って丸太にして出荷する作業を「素材生産」という。伐採跡地に苗を植え、下草刈りや除間伐をして森を育てていく作業を「保育」とか「育林」、「造林」という。一般の人から見ると、林業とは木を伐る仕事(=素材生産)と見られがちだ。
しかし、生産するのは丸太という商品になる原料までで、林業に携わっている人でも、出荷した丸太が、どう製材され、商品となって販売されているかはノータッチの場合が多い。原料の生産だけに頼っていては、原料価格が下落したら、生産量を上げるしか利益を得る道がなくなる。
そうではなく、原料としての段階でも、どうしたら商品価値を上げられるか(高く売れるか)を考え、さらにリフォーミングなど今までになかったマーケットを開拓し、ニーズに合った価値を付加し、原材料を商品に変える努力が必要だ。同じ一次産業の農業でもブランド化したり、加工品を生産したり、販路を開拓する努力をしているのだから林業も同じことだ。
ただ、農業は一年一作だが、林業は百年一作の事業。なかなか小回りが利かないという問題がある。そして、林業には、伐る前に数十年から100年という守り育てる時間、「保育」「育林」「造林」の綿々とした作業がある。近視眼的な施策だけでは、未来を拓くことができないだろう。いま「林業の成長産業化」が叫ばれている。成長することに越したことはないが、林業に必要なのは「成長産業化」ではなく「持続産業化」ではないかとこの本を読んで感じた。そのためには林ヲ営ム思想による技術と経営が必要なのだろう。