日本がベトナム原発受注 安全性は

ベトナムのハノイで10月31日、菅直人首相とベトナムのズン首相が会談し、発電用原子炉2基の建設を日本が受注することで合意した。ロシアや韓国など各国との競争が厳しい原発輸出市場で、初の受注獲得に自信を深める日本だが、問題点はないのか。

今回日本が建設を請け負うのは、中部ニントゥアン省で計画されているベトナム初の原子力発電所(出力400万キロワット)だ。2014年に着工し、2020年の運転開始を目指す。計4基の原子炉の内、日本が受注に成功したのは第2期工事分だ。

「発電時にCO2を出さない」として温暖化対策の切り札とも目される原子力発電は、現在各国で建設が計画されている。世界原子力協会(WNA)の予測によれば、原発の市場規模は2025年までに東南アジアで約9兆円、インドで約17兆円、中近東で約12兆円にも上るという。日本は新成長戦略でインフラシステムの輸出を掲げており、その核に原発輸出を据えている。

だが、原発市場の拡大を当て込む各国の輸出競争は激化する一方だ。日本は昨年のアラブ首長国連邦で韓国に、そして今年2月にも今回のベトナムの第1期工事分でロシアに、続けて受注を奪われた。

韓国、ロシアとも、国をあげたトップセールスで原発受注をもぎ取った。日本も官民一体で「総力戦」の態勢を整えるべく、10月22日に電力9社、プラントメーカー3社、官民出資ファンドの産業革新機構が共同で国際原子力開発を設立。原発建設や運転技術などをセットで提案し、受注拡大に乗り出す。

今回の受注も資金援助や技術移転に加え、廃棄物処理、原発の運転や維持を担う人材の育成といったベトナム側の要求に日本が応える形で実現した。50年の歴史がある日本の原発技術は、海外でも定評があるという。

しかし当の日本国内では、相次ぐ点検漏れの発覚や度重なるトラブルなどにより、原発への信頼は大きく揺らいでいる。内閣府原子力委員会は10月12日、現行の原子力政策大綱の見直しを巡り国民から意見を募ったところ、全体の約9割が「見直しが必要」と回答した。中でも個別意見では耐震性や被ばくなど、安全の確保に関するものが573件と最も多く寄せられた。

安全性への疑問が国内で高まるなか、果たして技術や運転実績の蓄積がない新興国で、原発の安全を担保し続けることが可能なのか。輸出国は輸出後も長期間、安全性に責任を持たなければならない。足元の安全確保こそ先決ではないか。(オルタナ編集部=斉藤円華)2010年11月4日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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