グローバル化で就職戦線も激化

文部科学省はこのほど、来春卒業予定の大学生の就職内定率が10月1日現在で前年同期に比べて4.9ポイント減の57.6%となり、調査を始めた1996年以降で最低となったと発表した。これは不況のための一時的な現象ではなく恒常的である可能性がある。グローバル化の進展で、日本の大卒採用の構造が変化したと考えられるためだ。

【図表】田代秀敏氏作成

ビジネス・ブレークスルー大学の田代秀敏教授は1995年から2010年まで、大学生の10月1日時点の就職内定率の推移をグラフ化し、GDPの粋と比べた(図表、95年は推定)。

景気も底堅く推移し、団塊世代の大量退職も影響した06~08年以外、2000年代の内定率は伸び悩み、90年代に比べても低い年が多い。田代教授は「企業が成長する新興国での採用にシフトしたことが一因ではないか」と指摘する。

同教授は、ある日系大手証券の幹部から次のように聞いたという。「日本でのビジネスは儲からないから香港に本社機能を移す。ただし日本に顧客が残っているために大きな声では言わない」。同社は中国人の採用を上海と香港で増やす一方、日本での採用を抑制した。 別の企業の幹部も「日本の景気が回復したら、中国人の留学生をたくさん採用したい。採用は日本人とは限らない」と話したという。

海外への雇用シフトの動きは上記に止まらない。ユニクロを展開するファーストリテイリング、そして楽天は今夏、社内の公用語を英語にすると発表した。

パナソニックの2011年春の新卒採用計画は、国内外合わせて前年比1割増の1390人だった。しかし国内採用は210人減の290人。一方で海外採用は47%増の1100人と過去最多になった。

しかも290人の国内採用枠は日本人向けではない。大坪文雄社長は『文藝春秋』2010年7月号で「日本国内の新卒採用は290人に厳選し、なおかつ国籍を問わず海外から留学している人たちを積極的に採用します」と言明した。同社の12年度までの中期経営計画(10年5月発表)では中国などでビジネス拡大を狙っており、新興国での採用が増えるだろう。

日本人で日本の大学を卒業し日本語しか話せない大学生であることは、就職活動で不利な条件の一つとなるかもしれない。「酷かもしれないが、大学生は採用枠がなくなりつつある現実を直視してほしい。自分のキャリア、スキル、勉強を早めに設計し、日本以外で仕事を見つけることも、視野に入れるべきだろう」。田代教授は警鐘を鳴らす。

長期の景気低迷で、短期の利益に結びつかないCSRや環境貢献活動が低迷する気配がある。同様に、即戦力とならない新卒の採用も切り捨てられているのか。その倫理的な是非はともかく、日本での働き方や就職に暗雲の立ち込める状況は続きそうだ。(オルタナ編集部=石井孝明)11月19日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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