崩壊するエネルギー基盤、世界はその先に何を見るのか--NPO法人「もったいない学会」会長 石井吉徳 2/2

7.3・11東日本大震災、原発神話が崩壊、そして招いた電力危機と放射能汚染
3・11の震災、津波は想定外だったかもしれませんが、福島原発の事故は人災としか言いようがないでしょう。緊急電源の設置場所が海岸側、しかも津波到来後の重なる不手際、原発は絶対安全という心の緩み、リスク感覚が欠如していました。

東日本大震災では大勢の人が津波で亡くなりました。「天災は忘れた頃にやってくる」で知られる地球物理学者、寺田寅彦は「地震が来てから津波は数十分後に来る」とのべています。

この常識さえ知っていれば、あれほどの悲劇とはならなかった、痛恨の思いです。効率優先のマネー資本主義、経済競争至上の社会を築いてきた日本ですが、それは庶民の幸せにはつながっていませんでした。

すでに述べましたが格差は拡大し、若者の失業率が高いのです。今の経済成長、GDPで計る経済成長は安い石油、豊富な資源供給で支えたのですが、それが限界にあること、改めて思い起こす必要があります。

そして不況です。借金をして経済浮揚せよとの大合唱、経済界はまだ使えるものを捨てさせようと浪費を強要します、それには成算がありません。石油減耗時代にはいっているのですから。成長の終わりの始まり、といってよいでしょう。もう時代は根底から変わったのです。

脱浪費、自然と共存、「もったいない」を志す日本型社会
「もったいない」で世界に範をしめしたいものです。私は2006年、もったいない学会を設立し、皆さんと「日本のプランB」を提唱してきました。日本の国土、自然を有効利用する戦略です。アメリカの真似ではなく、日本の自然と共に生きるプランBです。

この「B」とは、今が「A」、「C」が恒久的なプランで、Bとは変わり行く事態にどう対応するか、次の一手は、という意味でもあります。そこで改めて日本ですが、あまり知られていませんが、日本の海岸線の長さは世界の6番目です。

大陸でない島国ですから山岳は70%もあります。そして気候帯としては多雨のアジアモンスーン地帯、水は豊富です。このように見てくると、アメリカ大陸の石油漬け大規模農業を手本としてはならない、石油減耗時代はこの政策は改める必要があります。

石油依存の効率優先型では無く地域分散型の、食料、エネルギーの地産地消が望まれます。徹底した「低エネルギー社会」を目指すのです。価値観もマネーでなく人の絆を大事にする、もったいない社会の構築です。これは雇用を生むはずです。

(Colin Campbell 人間一人が60人のエネルギー奴隷をかかえる勘定)

3・11で学びましたが、地震、台風は多い日本列島で生きるには、欧米とは違うリスク感覚は必須でした。

石油減耗時代の日本、これからどうするかです。その考えの原点を改めて整理します。エネルギーが文明の形を決めます、そこで重要なことはエネルギーを得るための効率を考えること、エネルギー収支比、EPRでエネルギーを評価する習慣をつけるのです。それが低いエネルギーでは文明が支えられません。

最近、自然エネルギーの利用が話題ですが、自然エネルギーは一般に質が低く、石油に取っては代われないのです。分散している自然エネルギーを集めるには、またエネルギーが要るからです。

そこで無理に集めようとしないで、分散したまま使うのがポイントです。太陽エネルギーは人類が使うエネルギーの一万倍と、よく専門家が言いますがそれは間違いです。集めるのに質の良いエネルギーが必要だからです。

同じことが食料の地産地消にも言えます。消費者は食糧に全国約70兆円も払っていますが、農漁業の生産者、そして輸入食糧へはそれぞれ約10兆円、残り50兆円は生産とは関係のない所で使われます。これでは生産者が大変です。最も苦労する人々が潤いません。今若者が農業を敬遠する最大の理由はここにあるのでしょう。この構造を地方分散、地産地消型に変えるのです。

そして電気、石油エネルギーを出来るだけ使わないようにする、自動車もあまり乗らず自転車に乗る。ペットボトルやアルミ缶を使わない、ペットボトルもリサイクルせずに、そのまま上手に燃やすのが合理的です。飼料を多くやらなければならない牛肉は、なるべく食べない。養殖マグロではなくイワシのような小魚を食べる。

1970年頃、エネルギー消費は今の半分でしたが、心はより豊かだったと思います。もはや江戸時代に戻ることはできません。しかし、低エネルギー社会は作り出せると思います。江戸時代を、明治以降リーダは卑下してきましたがそれは間違い、と江戸研究の石川英輔氏は述べます。そして江戸時代の日本人はむしろ独創的だった、ようです。

浮世絵などはヨーロッパ絵画に大きな影響を与えました。また江戸の社会の治安のよさ、人の絆の深さは欧米にないことである、と日本に在留した欧米人はむしろ感銘しているのです。それを明治近代化で忘れ去った、むしろ卑下したのです。これはその後の日本のリーダの大きな誤解でした。もうそれを改めないと、3・11後の社会創造は叶いません。

安く豊かな石油が支えた、浪費型のGDP成長主義はもう時代遅れです。経済の無限成長、年率%とは幾何級数的成長のことです。この膨張主義はもう終わりにしなければなりません。有限地球で永続しないのです。資源制約、限りある自然に住む人間、我々だけが永遠に膨張できる筈は無いのです。「無いものねだり」をする文明は崩壊するしかないのです。文明崩壊の歴史が教えます。

世界の範となる「3・11後のPlan B」を考える
3・11日、東日本を大震災が襲いました、そして大津波です。それが福島原発の未曾有の事故となりました。世界で始めて、4基もの原子炉が崩壊したのです。
そこで前述の日本のプランBを見直しました。しかし大幅に変える必要はありませんでした。脱浪費、もったいない、が原理原則、原点でしたから。

3.11後のプランBを項目的に、
1)脱石油、原発依存社会の構想、自然エネルギーもEPRで評価、リアリズムの重視
2)有限地球観、自然共存の地方分散社会,世界6位の海岸線、山岳75%、立体農業を
3)脱欧入亜、脱グローバリズム、GDPからGPI,マネー主義は終焉
4)低エネルギー社会、少子化ほど有利、年長者も働ける社会の構築
5)石油ピークは流体燃料危機、脱車社会で鉄路、公共運輸の重視、自転車の利用
6)先ず減量、循環社会のReduce(減量 Reuse(再利用)Recycle(リサイクル)最初のR
7)効率優先主義の見直し集中から地域分散、自然と共存、地産地消で60倍の雇用創出
8)GDP成長より心豊かに、もったいない、ほどほどに、人の絆を重ずる社会の構築

これからは経済指標も考え直す必要があります。
GDPからGPI:Genuine Progress Indicator(真の進歩指標)など、産業のための指標から国民のための指標を採用するのです。GDPはマネーの大きさを表すだけですから、社会が不安定となり犯罪が増え刑務所をどんどん作ればGDPが増大します。産業が自然破壊し、それを修復すればGDPはまた増えます。

このようにGDPでは人の幸せ基準にしません、マネーで幸福は買えないといってもよいでしょう。GPIはそれを勘定に入れます。これからの国民優先社会の指標です。人類は大きな岐路にあります、石油ピーク、そして減耗時代だからです。

そこで自然エネルギーが期待されます。でも太陽エネルギーは人類が使う一万倍と、量は膨大といっても質は低いので、集めるのが大変、エネルギーも要ります。そして間歇的、不安定ですから、全て100%というわけに行きません。いろいろなエネルギーを共用する、そのベスト・ミックスを考える必要があります。そして社会の大前提、徹底した脱浪費、分散型の「低エネルギー社会」を構築することです。

成長願望は放棄する、人の幸せは何かと、本気で考えるのです。本来、有限地球で化石燃料社会は一過性でした、これからは真に持続的な文明とは何か、を模索するのです。
いろいろな新エネルギー、非在来型のシェールガスなとが話題ですがその意味もよく考える必要があります。
(原図 K.Hubbert 1956)

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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