企業活動は自然基盤に成り立つ ――トヨタの社会貢献活動の基軸は、森づくり

トヨタ自動車の社会貢献活動の基軸の一つに「森づくり」がある。1997年以来、「トヨタの森」(豊田市岩倉町)をはじめ、三重県、中国、フィリピンなど国内外で森づくりを進めてきた。なぜ自動車メーカーが森づくりを行うのか。トヨタの活動に長年携わってきた、NPO法人樹木・環境ネットワーク協会の渋澤寿一専務理事にその意義を聞いた。(オルタナ編集長=森 摂)

◆ 広葉樹の天然林をどう育てていくか

「これからは自然をベースにした資本主義に転換していく必要がある」と語る渋澤寿一氏

――トヨタの森づくりにかかわるようになったきっかけと、その後の活動について教えて下さい。

トヨタの森づくりにかかわるようになったのは1997年、フォレスタヒルズの社有林内に「トヨタの森」ができたころです。当時、トヨタは、森をつくり、里山を利用した環境教育や環境保全の実践を考えていました。

私は、里山林をアカデミックに分析していくことに関心を抱いていたので、トヨタが、人工林ではなく、天然林に目を付けたことをうれしく思いました。

日本の場合、森といえば「林業の場」としての側面が強く、人工林の割合も約40%と高い。しかし、日本は森林率67%と世界トップクラスの森林国で、「森の文化」を持っています。

森の文化とは、天然林と呼ばれる広葉樹林を中心とした、森の多様性に支えられた文化です。

トヨタの森ができた当時は、まだ「里山」という言葉が出始めたばかりで、森といえば林業というイメージでした。

スギやヒノキの人工林は、将来お金になるビジネスの場です。しかし、広葉樹を中心とした天然林は、燃料革命で誰も見向きしなくなり、素材としても利用価値が下がりました。しかも、ある程度年数が経つと成長も遅くなる。CO2の吸収能力も低く、注目されなくなってしまいました。

豊田市の中山間地域で実施している 「豊森」のプロジェクトには、2008年の秋ごろからかかわるようになりました。人材育成を中心とした環境教育プログラムを作りたいと、NPOとトヨタから相談を受けたことがきっかけです。

豊森は、トヨタ自動車だけではなく豊田市、NPO法人地域の未来・志援センター(名古屋市)の三者で始めた協働プロジェクトです。自然の中で暮らしながら、ビジネスの核をつくることのできる人材を育成することで、都市と農山村の暮らしをつなぎ、森を起点とした持続可能な地域社会を構築することが目的です。

◆ 森を基盤にした新しい生活を提案したい

――森づくりは、企業にとってどのような意味があるのでしょうか。

「CSR」という言葉が定着し始めた2003年ごろ、CSRの「R」は「relationship(関係)」なのか「responsibility(責任)」なのか、あいまいでした。それまでの「社会貢献」の延長線上にCSRがあったのです。

社会貢献は、企業の余剰利益で実施することになるので、会社の本業とは違うという認識が一般的でした。

しかし、企業は経済に基盤を置き、経済は社会基盤の上に成り立っています。その社会が自然という基盤の上に成り立っているならば、これからの社会が自然の上にどういう形で成り立つのかということを真剣に考えなければなりません。だからこそ、企業は社会や自然という基盤の上で事業を行うことに対して、責任を持たなければいけないのです。

さらに、多くの若者は、生き方のモデルを見失い、不安を抱えています。効率社会がやはり行き詰まっているのでしょう。

自分たちが生きていく基盤は、経済ではなく、社会や自然の上に成り立っている。自分の命が繋がっている。こうした実感を得られ、自分の人生が積み上がっているのだと感じられる社会を作っていかなければなりません。そうでなければ、幸福な社会にはなりません。同時に環境問題も解決できないのです。

ですから、もう一度、森の文化を見つめ直して、ライフスタイルの中に森の文化を取り入れながら、新しい生き方を提案していきたいと思っていました。

それから、豊森では、高度経済成長以前、もともと日本はどういう国だったのか、どういう暮らしをしていたのか。その当時を生きていた高齢者の方々に話を聞くことにしました。

その中で、自分たちは、どこに価値を見出して、どんなところに住んで、どういう暮らしをしていくかということを自由に考えられる場を作りたいと思い、「豊森なりわい塾」(「豊森」プロジェクトの中核である人材育成講座)を開始しました。

――自動車メーカーであるトヨタが森づくりをする意義はどこにありますか。

私が個人的意見として、トヨタの役員の方によくする話があります。

日本では今後、生産拠点が海外に移り、国内での生産が縮小することがあり得ます。その時に、労働力を吸収できるよう地域基盤を作ることもトヨタの社会的責任になるのではないかと。

豊田市の場合、市街地から車で30分ほど行けば中山間地域に入ります。週3日ほど会社で働きつつ、村のコミュニティを維持する活動にも参加して、人と人との連帯感を作る。自分たちが食べるものは自分たちで育て、裏の山を管理しながら1年間で使う程度の焚き木を生産する。そうした暮らしに価値があると思える人を育てることに意味があるのです。

◆ 自然をベースにした資本主義に

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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