山形県を舞台に、地域に伝わる「在来作物」を守り継ぐ人々の姿を描いたドキュメンタリー映画「よみがえりのレシピ」が、10月20日から東京・渋谷のユーロスペースで上映される。大量消費に適応できず、これまで地域に埋もれてきた在来作物が、映画では人と地域を再生する手がかりとして描かれている。
■独創的な調理で魅力引き出す

山形県内には、味の良さで全国的に知られる大豆「だだちゃ豆」のほか、田畑の脇の斜面で焼畑をして栽培する「宝谷(ほうや)カブ」などの在来作物がある。これらは農家が種苗を守り、代々受け継いでいるものだ。
しかし在来作物は多くの場合、収量が少ないなどの理由で品種改良された作物に取って替えられ、山形県だけでもこの数十年間で30種以上が失われたという。

山形大学農学部の江頭宏昌准教授は、そうした在来作物が「ここにしかない価値」を秘めているとして再評価する。そして奥田政行シェフは、在来作物などの地元食材を独自の調理法で独創性あふれる『山形イタリアン』として自身の店「アル・ケッチァーノ」(山形県鶴岡市)で提供し、高い評価を得ている。
映画では江頭氏、奥田氏、農家、そして庄内の人々が在来作物を通じて結びつく様子が描かれる。在来作物の一つ、「藤沢カブ」の栽培者が奥田シェフの料理を口にして「これが俺のカブ?」と驚く場面が印象的だ。
■作物の多様さ、要因に「戊辰戦争」も
2日には都内で渡辺智史監督、奥田シェフ、文化人類学者の中沢新一氏による会見が開かれた。渡辺氏と奥田氏はともに鶴岡市出身。中沢氏は、県内で村人にだだちゃ豆を振る舞われて以来、在来作物に目覚めたという。

奥田氏は自然に恵まれた山形県を「野菜や山菜の聖地。作物の多様さは世界的にもトップレベル」と評価する。そして、幕末の戊辰戦争で庄内藩が幕府側に付き、最後まで新政府軍に抵抗したことで庄内地域が「フタをされた」ことも在来作物が多く残った要因だと同氏が指摘すると、中沢氏が「均質化の中で日本がどう立ち直るか。日本という地域を守る礎がこの映画にある」と応じた。
映画は、在来作物を通して人と地域のつながりに光を当てる。そこにはTPPの是非や東電原発事故で揺さぶられる食と農、そして消費者の新しい結びつき方のヒントも、見えてくるようだ。会見の最後に渡辺監督は「ローカルフードが今後、輝きを増すことに(映画が)貢献できれば」と期待を込めた。(オルタナ編集委員=斉藤円華)2012年10月4日