サラヤは予期せぬ炎上をどう転機に変えたのか

記事のポイント


  1. サステナブル経営の先進企業として知られるサラヤ
  2. しかし、過去にはパーム油を巡り「ヤシノミ洗剤」が炎上したこともある
  3. この予期せぬ炎上をサラヤはどう転機に変えたのか

サラヤは1952年の創業以来、「衛生・環境・健康」の分野で、サステナブル経営をグローバルで展開している。同社が事業と社会課題の結び付きをより意識するようになったのは、2004年にテレビ番組に出演し、パーム油を巡り「ヤシノミ洗剤」が炎上したことだった。サラヤは、この予期せぬどう転機に変えてきたのか。

「ヤシノミ洗たく洗剤 濃縮タイプ」「ヤシノミ柔軟剤」を9月にリニューアル。肌と地球へのやさしさ、無香料・無添加のコンセプトはそのままに、洗浄力をアップした
「ヤシノミ洗たく洗剤 濃縮タイプ」「ヤシノミ柔軟剤」を9月にリニューアル。肌と地球へのやさしさ、無香料・無添加のコンセプトはそのままに、洗浄力をアップした

「ボルネオの環境保全活動を始めてから、当社の事業と社会課題の解決の結び付きがより明確になった」。廣岡竜也・サラヤ広報宣伝統括部長は、こう振り返る。

サラヤがボルネオ環境保全プロジェクトを開始したのは2004年。あるテレビ番組がきっかけだ。「洗剤の原料となるパーム油生産のため、ボルネオではアブラヤシ農園が拡大し、野生生物が絶滅の危機に瀕している」と、サラヤに取材を申し込んできた。

大手企業が取材を断るなか、更家悠介社長は事実に向き合い、取材に協力することを決めた。しかし、思いがけず世間から大きな批判を浴びた。

「パーム油を巡る問題について『知ったからには環境保全に取り組みたい』と答えたが、『知らなかった』の部分だけが番組で使われた。その結果、『ヤシノミ洗剤は環境に良いと見せかけて、森林を破壊している』という誤解が広まってしまった」(廣岡部長)

パーム油は、スナック菓子やチョコレートなど、食品への利用が85%を占める。残り15%は化粧品や石鹸・洗剤といった非食用だ。世界的な大手メーカーと比べ、決して大きくないサラヤの使用量は、全体から見ればごくわずかにすぎない。

しかし、廣岡部長は「使用量を理由に責任を逃れることもできたが、そうしなかった。『ヤシノミ洗剤』という代表的な商品の誤解を解かなければ、会社のイメージは悪いままだ。社員も動揺している。まず自分たちの目で、ボルネオの現状を知ることから始めた」と話す。

調査員からは、森林破壊や生物多様性の危機は事実だと報告された。そうであれば、たとえ少量でも「つかう責任」を果たそうと、ボルネオの環境や野生生物を守る活動を始めた。

2007年には、ヤシノミ洗剤シリーズの売り上げの1%を保全活動に寄付する取り組みをスタート。いわゆる「コーズマーケティング」の手法で、生活者の支持を得て、売り上げは伸びていった。

社内の理解に壁、外部評価がカギ

だが、活動当初、社内の理解は乏しかった。

「会社として利益も上げなくてはならないなかで、営業部門にしても財務部門にしても、利益を社外で使われることは、純利益を減らすことになる。『ボルネオで生き物を救うくらいなら給料を増やしてくれ』、そんな声さえあった」(廣岡部長)

そこで、経営層や幹部社員にもボルネオを視察してもらった。現地に赴き、伐採の状況を見て救出活動に参加するなかで、事態の深刻さが理解されるようになった。社員向けの勉強会も地道に続けた。

同時に、廣岡部長は第三者の評価にこだわり、積極的に外部のアワードに応募した。その結果、次々に様々な賞を受賞した。「メディアに取り上げられたり、取引先や家族からほめられたりすることで、自社が取り組む問題への意識が高まっていった。同時に会社や仕事にプライドを持てるようになり、良い循環が生まれてきた」(廣岡部長)

採用にも良い影響を与えた。廣岡部長は「大阪の無名な中小企業にもかかわらず、優秀な大学生が応募してくれるようになった」と話す。

ウガンダで「石けんによる手洗い」の大切さを伝えている
ウガンダで「石けんによる手洗い」の大切さを伝えている

2010年には、創業60周年を見据え、創業の原点である「衛生」での貢献を目指し、「100万人の手洗いプロジェクト」を開始した。日本ユニセフ協会の協力のもと、対象となる衛生商品の売り上げの1%をアフリカ・ウガンダの手洗い促進活動に寄付する取り組みだ。ウガンダでは5歳未満児死亡率が1千人あたり55人に上る。その原因となる主な病気は正しい手洗いで予防できる。

2011年には、現地法人を設立。2014年には、現地でアルコール手指消毒剤を生産し、医療従事者に普及させるソーシャルビジネスを開始した。「医療機関でさえ、アルコール消毒剤を購入するのが経済的に厳しかった。そこで現地で原料を調達し、製造することで、価格を抑え、広く普及させることを目指した。現地での雇用創出にもつながった」(廣岡部長)

ウガンダでは、手洗いやアルコール消毒剤を「サラヤ」と呼ぶほど、手を洗う習慣とともにサラヤの名前も浸透した。20年には念願だった現地法人の黒字化を達成した。

「社会が良くなり、ビジネスも良くなる。サラヤは、事業を通じて環境や衛生の問題を解決する企業として認知され、取引先以外からも問い合わせを受けることが多い」(廣岡部長)

衛生や海の問題、解決の挑戦続く

サラヤが支援するNPOゼリ・ジャパンは、2025年大阪・関西万博で「海の 蘇生」をテーマに出展する(提供:特定非営利活動法人ゼリ・ジャパン)
サラヤが支援するNPOゼリ・ジャパンは、2025年大阪・関西万博で「海の 蘇生」をテーマに出展する(提供:特定非営利活動法人ゼリ・ジャパン)

そうした実績が認められた象徴的な商品が、セブン&アイグループ共通プライベートブランド「セブンプレミアムライフスタイル」とのコラボレーションだ。ヤシノミ洗たく洗剤や手指消毒スプレーなどをダブルネームで販売。商品の売り上げの一部は、ボルネオの環境保全や手洗いプロジェクトに寄付する。

「プライベートブランド(PB)で展開する場合、製造元の社名さえ明記されないこともある。環境・社会価値が経済価値につながるということが認識され始めた。時代の変化を実感している」(廣岡部長)2022年に創業70周年を迎えたサラヤが次に手掛けるのは、海の問題だ。同社が中心となり、2022年12月に「ブルーオーシャン・イニシアチブ」を設立した。

「これまで森林の保全に取り組んできたが、森は海とつながっている。海の問題も無視できない。企業として何ができるのか。どうすれば企業として持続可能に活動を続けられるのか。意識しながら、新たな課題に取り組んでいきたい」(廣岡部長)

同イニシアチブは、「海」にかかわるあらゆるステークホルダーと共創し、「海の保全と繁栄」の両立を目指す。政策提言なども行う予定だ。

「開拓の場は永遠にある。我々が授かった力の限りをもって之を開発し、世の為に働こう」

創業者が掲げたサラヤの綱領は、形を変えながら、いまも確かに息づいている。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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