効率と信頼を両立したフロン管理、現場の意識高め相乗効果を

フロン管理の現場から―RaMS導入事例紹介(6)

「20世紀最大の発明の一つ」とも言われたフロン(CFC:クロロフルオロカーボン)は、それまで有毒な冷媒を使っていた冷凍空調機に大きな進歩をもたらした。ところが、そのフロン類がオゾン層を破壊するメカニズムが発見され、世界で規制が進む。日本でも2020年4月施行の改正フロン排出抑制法で、罰則が大幅に強化された。企業はどのようにフロン類を管理していけば良いのか。積極的に課題解決に取り組む企業を紹介する。(聞き手・香川希理=弁護士、記事・萩原 哲郎=オルタナ編集部) 

第6回 積水ハウス
環境推進部 村井 孝嗣課長
聞き手:香川 希理 弁護士(香川総合法律事務所代表、企業法務とフロン排出抑制法が専門)
積水ハウスは戸建て住宅・賃貸住宅の請負からマンション開発・都市開発まで手掛ける大手住宅メーカーだ。1960年の設立以降、国内においてプレハブ住宅 の性能向上や供給拡大を牽引してきたメーカーの一つである。従業員数は1万4932人、建築戸数は258万戸超におよぶ(いずれも23年1月末現在)。 

フロン管理では、戸建て住宅・賃貸住宅の建築部材を製造している自社工場や研究施設、オフィスなどに設置した約3000台の空調機器の管理や、建替えに伴い解体する建築物に設置された業務用冷凍空調機器のフロン回収が中心となる。 (連載・PR)

利便性や信頼性が導入の決め手に

―貴社の経営層の脱炭素やフロンに対する考え方を教えてください。 

当社は2050年までの脱炭素化を宣言しており、事業での使用電力で再エネ100%を目指すRE100の目標を掲げ、パリ協定の基準に適合したSBT(Science Based Targets: 科学的根拠に基づいた目標設定)認定などバリューチェーン全体で様々な取り組みを行っています。 

温暖化ガスの98%がスコープ3となっていて、カテゴリ11(消費者による製品の使用)が6割です。ここではZEH(net Zero Energy House: ゼッチ)やZEB(net Zero Energy Building: ゼブ)で削減に取り組んでいます。カテゴリ1(購入したサービスや製品)は3割を占めます。ここではサプライヤーに対してSBT目標設定を促すなどしております。 

フロンガスの温室効果ガスへの換算は、スコープ3や社外への情報公開に反映させる必要があり重要事項です。そのため本社の環境推進部で一括して体制を構築していくことに取り組んでいます。 

積水ハウス株式会社環境推進部 村井 孝嗣課長

RaMSを導入した経緯を教えてください。 

当初は自社でのシステム開発を検討していました。 

当社では、廃棄物処理に関わる電子マニフェスト交付や廃棄物処理委託契約書を一括作成するための自社システムを約20年かけて完成させました。更にそのシステムを拡張して、建設リサイクル法やアスベスト対策などの環境法に関する書類も一括作成できるようになっています。 

フロン排出抑制法では業務用冷凍空調機器の漏えい量算出だけでなく、解体工事においても解体業者に課された責務があります。解体業者の責務についてはシステム対応したので、新たにフロンの漏えい量を管理するためのシステムを開発できないか検討しました。 

しかし、自社で行うよりもすでに国の指定する情報処理センターであるJRECOが運営するRaMSを上手に活用したほうが利便性も高く、また社会に対する訴求力もあると考えて、20年6月に導入しました。 

―20年6月に導入してからの効果についてはいかがでしょうか。 

相当数ある管理対象機器の点検状況は本社で一括確認できました。定期点検を怠っている場合には、点検をするように促しやすくなりました。 

フロンの漏えい量の算出についても、重要事項について容易に資料を作成することができます。たとえば、「Value Report」という事業・財務・非財務の情報を公開する統合報告書を発行するにあたっては監査法人の監査を受ける必要があります。その際にもRaMSから取得した書類を監査のためのエビデンスとして活用しています。 

自社システムなどを活用して法令遵守を徹底

―フロン対策で課題だと感じている点について教えてください。 

課題のひとつは、簡易点検や定期点検の重要性についての理解が現場まで浸透しきっていないことです。定期点検の内容がタイムリーに反映されていないということも見受けられ、改善を促していきたいと考えています。 

解体工事などでも同様で、廃棄物となる空調の処理について関心が薄い現場もあります。事業所では環境に特化した専門職を置くことも理解が得られにくいのが実情です。 

商品開発でも影響を受ける可能性があります。モントリオール議定書キガリ改正で空調などに多く使用されるHFC(ハイドロフルオロカーボン)の生産・消費が規制されました。まだ社内で危機感はありませんが、空調機器などの調達が将来懸念される可能性もあります。 

環境推進部では今後フロン管理を強化する予定です。現場にフロン管理の重要性や法律の趣旨への理解を浸透させるとともに、商品開発にも影響がでる可能性があることを伝えて、意識を共有していきたいと考えています。 

―21年11月にはフロン排出抑制法違反の疑いで、ある企業の解体工事が摘発されました。 

建物の解体を事業のひとつとして行っている当社でも起こりうるケースとして危機感を持っています。 

こういった事案が発生しないよう、システムなどの整備を進めています。 

フロン回収の該当機器がある、あるいは第一種特定製品の管理者が廃棄をする解体工事を受注する場合には、契約時に発注者に説明しなければならないことが法律で定められています。 

それに対応するため、「環境法令に関する説明書」というフォーマットを用意しています。これは社内システムで、受注する工事の規模や内容を画面の指示に従って入力すると適用される法令をプログラムで判断し書類を作成するというものです。 

対象となれば事前確認説明書など必要な書類を作成します。これらの書類を建設工事請負契約書に添付することを社内で義務付けています。添付することで保管義務もクリアできますし、法令の対応漏れも防ぐことができます。もちろんシステムでも履歴を追うことができます。 

システム以外にも「お客様は事業者に該当するか」「施工範囲のなかに業務用冷凍空調機があるかないか」など簡単に判断できるようなマニュアルを作成しています。 

フロンに限らず、アスベスト対策や建設リサイクル法などに関してこういった資料を用いて教育しています。 

―グループ会社との間での連携はいかがでしょうか。 

環境推進部がグループ会社全体の環境政策を統括しています。法令に対応したルールも作っており、それをグループ会社全体に展開しています。 

ルール策定にあたっては、業種業態の特有の事情があります。そういった特有の事情や業態に対応できるようにアレンジして、ルールを定めています。 

積水ハウスグループは全ての事業所を直営しているため、統率を取りやすいので、トップダウンで管理しています。 

RaMSの活用はまずは積水ハウス単体で活用しています。順次グループ会社の内部での体制を整えながら、導入を図っていくことを検討しています。 

聞き手:香川希理弁護士(香川総合法律事務所代表)

                 ■ ■ ■

JRECO(一般財団法人日本冷媒・環境保全機構)とは
一般財団法人日本冷媒・環境保全機構は、冷凍空調機器からの冷媒フロン類(CFC、HCFC、HFC)の大気放出抑制、使用の合理化及び管理の適正化に係わる事業の推進を、関係事業者との連携及び行政当局との協調のもとで実施している。

事業の一環として2015年に施行されたフロン排出抑制法の遵守ツール「RaMS」をクラウドで提供する。「RaMS」には主務大臣から認可された「情報処理センター」機能を含み、書面によらない一元管理とデータ解析によるDX推進が可能だ。

RaMS(冷媒管理システム)とは
RaMSは第一種特定製品(業務用冷凍空調機器)とその冷媒の管理ができるクラウドシステム。経済産業省と環境省から認可された情報処理センター機能を包含し、法により管理が義務付けられている全書面を電子的に改正法に準拠した形で管理でき、フロン排出抑制法を遵守することが可能になる。

機器の所有者にとって、法遵守のための機器の総棚卸しは煩雑で負担が大きな作業だが、RaMSを活用することで少ないリソースで管理できる。経営に活かせるデータの解析や温対法算出も可能だ。

代替フロンやRaMSについて詳しく知りたい方はこちら→ yamamoto(a)jreco.or.jp
(a)を@に変更してお送りください。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #脱炭素

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