■キリン、パナソニック、デル・テクノロジーズが語る「気候変動と生物多様性」

2050年のカーボンニュートラル、2030年のネイチャー・ポジティブを目指してサステナビリティの動きは目まぐるしく変化するなかで、オルタナと世界自然保護基金(WWF)ジャパンは3月24日、オンラインイベント「EARTH HOUR Weekに学ぶ気候変動と生物多様性」を開いた。環境経営に取り組むキリン、パナソニック、デル・テクノロジーズの担当者をゲストに招き、気候変動や生物多様性への取り組みについて話し合った。(オルタナ編集部)

オンラインイベントのパネリスト、左からパナソニックの下野隆二・環境渉外室長、キリンホールディングスの小此木陽子・CSV戦略部、デル・テクノロジーズの松本笑美・Japan CDO Office所属、WWFジャパンの松田英美子・生物多様性グループ長

このイベントは、WWFが実施している世界最大級の環境キャンペーン「EARTH HOUR 2022」のカウントダウン企画「EARTH HOUR Weeks」の一環として開いた。

「EARTH HOUR」とは、WWFが2007年から実施してきたキャンペーン。世界中の人びとが同じ日・同じ時刻に電気を消し、地球温暖化防止と生物多様性保全への取り組みを促す世界最大級の「消灯アクション」である。

今年は3月26日(土)20:30~21:30を「EARTH HOUR」とし、この日に合わせて、さまざまな企画を展開した。

当日のイベントのパネリストは、パナソニックの下野隆二・環境渉外室長、キリンホールディングスの小此木陽子・CSV戦略部、デル・テクノロジーズの松本笑美・Japan CDO Office所属、WWFジャパンの松田英美子・生物多様性グループ長の4人。ファシリテーターはオルタナ編集長の森摂が務めた。

「気候変動と生物多様性はコインの表裏」

最初に登壇したのは、WWFジャパンの松田・生物多様性グループ長。松田氏は、「気候変動と生物多様性は切っても切り離せない関係」と強調した。国連の気候変動条約と生物多様性条約はともに1992年に発足したが、議論するメンバーやターゲットが異なり、これまでは「交わらずに議論されていた」という。

しかし、世界の人口が増えるにつれて、開発が進むようになり、その結果生物多様性が重視されるようになった。今では、「気候変動と生物多様性はコインの表裏の関係だ」と述べた。

松田氏はG7など世界の首脳たちは「ネイチャー・ポジティブ」を共通アジェンダに掲げ、各国で取り組みを進めていることも説明した。ネイチャー・ポジティブとは、生物多様性の減少傾向を反転させて2030年までに回復に向かわせる考え方だ。TCFDの生物多様性版であるTNFDの構築が進んでいることにも言及した。

パナ、「WHY」から「HOW」を議論へ

パナソニックは環境への取り組みとして、2030年までに全事業会社でCO2排出実質ゼロ、2050年までに自社バリューチェーンでCO2排出規模を上回る削減貢献を目標に掲げる。

この目標を達成するための取り組みを、「Panasonic GREEN IMPACT」と名付け、「くらし」「モビリティ」「街」「サプライチェーン」の4分野に対して重点的に取り組む。

同社 品質・環境本部 環境経営推進部 環境渉外室の下野隆二室長は、「当社は、スコープ1、2、3で約1億1000万トンの排出がある。そのうちスコープ1、2は220万トンで、これを2030年までに実質ゼロにする。スコープ3は約8800万トンあり、これも低減させていく」と熱を込めた。

事業活動で消費するエネルギーを100%再エネ化するための実証事業を展開する。滋賀県草津市の拠点に純水素型燃料電池(500 kW)と太陽電池(約570 kW)を組み合わせた自家発電設備、 余剰電力を蓄えるリチウムイオン蓄電池(約1.1 MWh)を備えた大規模な実証施設を設置した。

生物多様性に関しては、20年以上、WWFジャパンの「海の豊かさを守る活動」を支援している。南三陸のカキ養殖業復興支援を機に、MSC、ASCなどの認証を取得した水産物を、日本で初めて社員食堂に導入した。

ファシリテーターからの野心的な目標を掲げることで、社内にどのような影響が出ているかという問いに対し、下野室長は「従業員はこれまで『なぜやらなければならないのか』というスタンスだったが、『どうやったらできるのか』という意識に変わった」と、変化を強調した。

キリン、社会課題はリスクと機会の両面で対応

「キリングループ」が事業を展開する3つの領域(酒類・飲料、ヘルスサイエンス、医薬)はいずれも農産物と水が原料であり自然資本の恩恵を受けているが、気候変動の影響を最も受けているものも農産物と水である。持続的な事業継続に向けて、「環境ビジョン2050」を策定し、「生物資源」「水資源」「容器包装」「気候変動」の4つの重要課題を特定し、戦略的に取り組んでいる。

持続可能な原材料の調達を進めるうえで調達農作物のリスト評価を実施し、「紙」「パーム油」「紅茶葉」「コーヒー豆」「大豆」の5品目を特定し、「持続可能な生物資源利用行動計画」を策定し、持続可能性の高い調達を目指して取り組んでいる。原料農作物などの自然資本は、気候変動などのグローバルな影響を最も受けるため、GHG排出削減に向けた取組み(RE100、SBTi 1.5℃認証など)も重要である。一方で、生物多様性は特定の地域で損失が生じた際に他の土地で補完できないという特徴もあるため、ローカルな視点で取組むことも必要であると考えている。

自然資本に関連する取組み事例として、看板商品「午後の紅茶」の原料茶葉・生産地であるスリランカの紅茶農園に対する支援を紹介した。「午後の紅茶」は昨年で発売開始から35年を迎えており、日本が輸入する紅茶葉の約1/2 がスリランカ産で、その1/4を「午後の紅茶」に使用している。

キリンは、スリランカの紅茶農園に対して「レインフォレスト・アライアンス認証」の取得支援をしている。2013年から開始し2020年末時点でスリランカ全体の認証取得済み大農園のうち、約30%にあたる93農園が取得した。

「レインフォレスト・アライアンス認証」は、自然と作り手を守りながら、より持続可能な農法に取り組み、持続可能性の3要素「環境・社会・経済」をもとにした基準要件に準拠する農園に対して与えられる認証である。

キリンでは認証支援の取組みを通じて得られたネットワークを活用し、新たな取組みとして水源地保全活動を2018年から開始している。2021年3月末時点では12カ所の水源地を柵で囲んで保全し、地域の在来種を植林することで単一栽培の紅茶農園に多様性を与え、さらに集中豪雨などで山の斜面から流出した土砂が水源地に流れ込むことを防いでいる。

日本国内での取組みとして、グループ企業のメルシャンで「日本ワイン」の生産・販売の拡大に向けて遊休荒廃地をヴィンヤード(ブドウ畑)に転換している。ヴィンヤードへの転換による環境影響を調査したところ、ヴィンヤードの垣根・草生栽培を通じて、良好な草原環境が形成されていることが国立研究環境開発法人農業・食品産業技術研究機構との共同研究で判明した。

適切な下草管理を行うことで、ヴィンヤードが希少種や在来種を含む草原生態系を有していることが判明した。つまり、生態系の乏しい遊休荒廃地からヴィンヤードに転換することで豊かな生態系の形成が促進されることは、2030年までに生物多様性の損失を止めて逆転させるという「ネイチャー・ポジティブ」にも合致している。

社会課題をリスクだけでなく、機会としてとらえるポイントについて、小此木氏は「気候変動が私たちに与える影響をリスクと機会の両面で考え、CSVに落とし込んで事業として展開していく」と強調した。

デル・テクノロジーズ、ゴミを生まない製品づくり

「パソコンにしろ、サーバーにしろ、いままでのようにモノをつくり続ければ、それらはいずれゴミになってしまう」。デル・テクノロジーズは2000年ころから全社規模で危機感を共有し、資源循環に取り組んできたという。同社はサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に向けて、修理やリサイクルを前提とした製品設計を行う。

同社は2030年に向けて「ムーンショットゴール」として目標を掲げ、ESG・サステナビリティを推進している。「サステナビリティの促進」「インクルージョン文化の醸成」「ライフスタイル変革への貢献」「倫理とプライバシーの順守」の4つの領域で、数値目標を設定している。

「サステナビリティの促進」では、販売した製品と同量の製品の再利用または再生利用を行い、梱包材の100%、製品部品の50%以上に再生可能材量を使うことを目指す。

2017年からは海洋プラスチックの再利用にも力を入れ、海洋プラをリサイクルした梱包材を出荷している。年間再利用量を2025年までに10 倍(2017年比)にするという目標も掲げる。

現在、ノート型パソコンの2製品「XPS」と「Latitude」の梱包材の再生プラ含有率は50%に上る。3月には、海洋沿岸などから収集されたリサイクルペットボトルを使ったバッグ類4製品を販売した。4月5日に発表されたLatitude 5000シリーズでは再生プラスチックをCPUファンのケーシングに使うなど、新たに海洋プラスチックの使用用途を広げている。

気候変動対策としては、2050年温室効果ガス排出ネットゼロ目指し、スコープ1で「2030年までに50%削減」、スコープ2で「2040年までに再エネ100%」、スコープ3で「2030年までに販売単価あたり60%の温室効果ガスを削減」を掲げる。

デル・テクノロジーズのJapan CDO Officeに所属する松本笑美氏は「スコープ3が9割を占めるため、ここをいかに減らすかが課題。まずはサプライチェーンの上流に取り組みながら、製品使用時の排出量に関してはお客様のお知恵を借りながら、排出削減を進めていきたい」と話した。

ファシリテーターを務めたオルタナ編集長の森は、「2050年カーボンニュートラルという目標を前倒しする企業が増えてきた。スコープ3の取り組みを強化し、カーボンポジティブを目指す。生物多様性も同様で『もとに戻す』動きがこれから起きてくる。企業はどう前向きに取り組めるかが問われだす」とまとめた。<PR>

イベントの模様