ネスレ日本は主力製品「キットカット」のパッケージに、「1日2枚までがおすすめ」という文言を入れている。ネスレは世界188カ国で事業を展開するが、この文言を入れたのは日本独自だ。場合によっては、消費を制限するコミュニケーションにもなるが、なぜ強調したのか。(オルタナ編集部)
ネスレ日本はこのほど、「キットカット」のパッケージのリニューアルを行うと公表した。パッケージの表面には、「キットカット」1枚分の摂取カロリーを記載した。個包装単位でエネルギー(熱量)を表示した菓子は少ない。

裏面には、「バランスの良い食生活の中で1日2枚までがおすすめです」という文言を記載した。加えて、子ども向けには、適切に調節するよう注意喚起を促した。
厚生労働省と農林水産省が策定した、「食事バランスガイド」は、菓子・嗜好飲料の1日の摂取量の目安は200kcalと定めた。「キットカット」は1枚62kcalなので、この目安から計算すると「1日3枚まで」と表示することもできた。だが、「キットカット」以外の嗜好品・嗜好飲料を飲食することもあると考え、「1日2枚まで」とした。
こうした消費者の健康を促すコミュニケーションは、パッケージだけでなく、TVCMやデジタル広告など、あらゆる媒体で一貫性を持って行う。ネスレ日本は「キットカット」だけでなく、全製品でこの考えを適用する。
■「透明性」など3本柱で適量摂取を伝える
だが、場合によっては、消費を制限するコミュニケーションにもなる。どういった考えで、この広告表現を使うのか。
ネスレ日本の原田大輔・マーケティング&コミュニケーションズ本部コーポレートアフェアーズ統括部ウエルネスコミュニケーション室室長は、「栄養・健康・ウェルネスに取り組むことで、最終的には社会からの信頼を得られると考えている」と言い切った。
ネスレは中長期的なグローバル戦略として、「Good for You戦略」を掲げる。この戦略は2本の柱からなる。「ポートフォリオと製品」「コミュニケーションとサービス」だ。
この2つの柱を強化する中で、「透明性」、「責任あるマーケティング」「減塩」という3つのコミットメントを掲げ、取り組みだした。具体的には、栄養的価値を評価したレポートの公開や、子どもに対するマーケティング規制などだ。
ネスレでは、バランスの良い食生活を、生理的、社会的、心理的すべての側面を満たしたものと定義した。この定義をもとに、提供する製品がバランスの良い食生活にどのような役割を果たし得るのか、位置付けた。管理栄養士など各分野の専門家と協力しながら、製品設計の段階からこの考えを取り入れた。

パッケージに関しては、エネルギー量などの栄養情報を分かりやすく、視認性の高い場所に記載した。摂取目安量も色やフォントを工夫して目立つようにした。
子ども向けのマーケティング活動にも一定の自主規制を設けた。菓子やアイスクリームなどの製品について、16歳未満へのマーケティングコミュニケーションを制限した。全製品においても、6歳以下の子どもに対するマーケティングコミュニケーションを行わないようにした。
さらに、社内の「レシピ基準」を持っており、エネルギー量、脂質量、食塩相当量などの基準を超えたものはレシピとして社外に打ち出さない。例えば、「たっぷり」「控えめ」といった表現を使う場合は、社内で数値としての基準を定め、その基準をクリアした製品やレシピだけが使えるようにもした。
■将来の肥満や生活習慣病へのリスク予防も
Good for You戦略の根底には、菓子・嗜好飲料製品を扱う会社として、広告コミュニケーションにおける「ガイド(指針)」が重要だという考えがある。原田室長は、「食品企業として、バランスの良い食生活を実現するためにどうあるべきか、そこから逆算して2008年ごろにガイドを作った。広告コミュニケーションの原則だ」と話した。
この考えの一環として、製品の栄養価を科学的に測るため、外部団体の栄養評価モデルを使った。「美味しさ」の根拠を客観的に持った上で広告コミュニケーションを行うが、ただ単に美味しさを強調する訳ではない。将来の肥満や生活習慣病へのリスクを下げるため、「適量」の摂取が大事だと伝える。
このガイドは、1997年に当時のピーター・ブラベックCEOが打ち出した、「健康・栄養・ウェルネス戦略」を源流につくったという。

だが、この手法は場合によっては、消費の制限にもなる。葛藤はないのか。原田室長は、「正しい情報を提供し、お客様の食べ過ぎを防ぐことで企業への信頼につながる。信頼なくしてブランドは構築できない」と言い切った。
「コーヒーやチョコレートをつくっている企業の持続的な経営のあり方を考えた時、お客様が健康であり続けることが、ネスレと安心してお付き合い頂ける最低条件になる。グローバルで展開するにはそうした信頼を得ないといけない」
■製品担当者の「こだわり」が信頼の源泉に
ネスレは1866年の創業以来、社会課題の解決につながる事業を展開してきた。創業者のアンリ・ネスレは、栄養不足による乳幼児の死亡率の高さを問題視し、乳児用の乳製品を開発した。2006年には、当時のブラベックCEOがCSV(共通価値の創造)を提唱した。
社会課題の解決を通してファンを作ってきたネスレだが、Good for You戦略も同じ考えだ。中長期的な視点で、健康の促進を通して、ファンの獲得を狙う。
原田室長は、「お客様が最終的に手に取るのは製品なので、どれだけ会社として戦略を持っていようが信頼を勝ち取れるかは製品ブランドが入口だ。そのため、製品担当者が過食を防ぎ適量を推奨するためにコミュニケーションやデザインにこだわる。その熱量がネスレへの信頼につながっている」と話した。<PR>