日本政府が掲げた2050年カーボンニュートラルに向けて再生可能エネルギーへの転換を図る企業が増えている。最もハードルが低い選択肢が太陽光発電の導入だが、国土面積の7割を森林に覆われた日本では建設地や託送料金の問題がある。そこで注目されているのが、施設の屋根や駐車場の有効利用だ。太陽光パネルメーカーのインリー・グリーンエナジージャパンの山本譲司相談役(元社長)、送配電網を使わずに電気を届ける「オフグリッド電力供給サービス」を提供するアイ・グリッド・ソリューションズの秋田智一社長が対談した。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

インリー・グリーンエナジージャパンの山本相談役(元社長)(左)とアイ・グリッド・ソリューションズの秋田社長

――2050年のカーボンニュートラル(CO2排出量を吸収量で相殺すること)を達成するためには、企業が太陽光発電を導入することが有効な手段の一つです。どのような方法で導入していくべきだとお考えでしょうか。

秋田:太陽光発電を導入したいというニーズは増えていますが、課題は設置する場所が日本にそこまでないということです。これは太陽光だけでなく、洋上風力にも同じことが言えます。

2012年から始まったFIT(固定価格買い取り制度)の変遷を見てみると、発電規模が1千kW以上のメガソーラーの開発を主軸にしてきたことが分かります。環境アセスメント(環境影響調査)が不要で発電効率が良いということが理由ですが、これには二つの問題があります。

一つは土地の問題です。日本は国土の7割が森林ですので土地が狭い。そのため、設置場所が少なく、大規模な太陽光発電に見合う土地がなくなると里山などの林地に開発していくでしょう。

そうなると太陽光発電を設置するために森林を伐採するという本末転倒のことが起きます。

もう一つは電気を送る送配電網の利用料金である”託送料金”の問題です。何もない土地につくったとしても、そこまで送配電網を引っ張らないと電気を供給できないので、コストが掛かります。

当社のサービスである「オフグリッド電力供給サービス」は、既存施設の屋根に太陽光パネルを設置するので自然への負荷をかけずに太陽光発電を増やすことができます。また、施設の屋根にはすでに送配電網が敷かれているため送配電網の問題も緩和されます。

さらに、スーパーや物流施設は全国の生活圏をカバーしており、発電施設が地域分散型で構築されていくことになります。

ただし、ネックになったのはパネルを設置するための初期投資です。そこで、子会社であるVPP Japanが太陽光設備を所有し、発電した電力を自施設に供給する「オフグリッド電力供給サービス」を開発しました。設備の所有と電力利用を分けるという仕組みにより初期投資をせずに再生可能エネルギーを使うという選択肢を生み出しました。

VPP JapanがPPAモデルで自家消費太陽光を導入し、消費しきれない太陽光余剰電力をアイグリッドが需給調整を行い他電力利用者に供給する事によって、ホームセンター、物流センターなどの施設で自家消費太陽光導入量を最大化する

山本:弊社も去年、「MOENZO」(燃えんぞぅ)という屋根一体型のソーラーカーポートを開発しました。ありそうでなかった製品だと自治体などから好評を得ています。

更に国交省の「飛び火認定(DR)」を日本で初めて取得したので、防火地域や、市街地や駅周辺など建物が密集した地域でも安心して設置できます。90センチの積雪にも、最大44メートルの突風にも耐えます。このMOENZOで日本中の駐車場を太陽光発電所に変えるべく取り組んでいます。

屋根一体型のソーラーカーポート「MOENZO」(燃えんぞぅ)

さらに、もう一つ狙っていることがあります。昨今EVシフトの動きが加速していますが、現在の日本のコンセント(電力系統網)からEVへ充電をした場合、その約80%が結局は火力発電由来のエネルギーになってしまいます。再エネで発電した電気で走らせないとEVの意味がないので、このMOENZOとEVチャージャーをセットで駐車場に設置することで、ガソリン車からEVへのシフトを本質的に意味のあるものにすることができます。

特に地方は車社会です。通勤に使われるEVが、太陽光発電が稼働する日中に停められている駐車場に、MOENZOとEVのチャージングステーションを備えることで、移動に伴う脱炭素化を推進していきます。

秋田:屋根の上にパネルを設置するには、屋根の構造上、ある程度の耐久性が必要です。屋根によっては全面に設置できないケースもあります。

そのため、屋根だけでなく、駐車場の有効利用に目を付けたのは勝算があると思います。ゼロカーボンシティを目指す自治体は増えていますが、風力を設置できる自治体は限られているので、必然的に選択肢は太陽光の導入になります。

自治体が旗を振って、このソーラーカーポートを導入していくことで、その地域に再エネを増やすことにもつながります。

加えて、学校や物流施設、一軒家の屋根にも可能性があります。一軒家でEVがあれば電池の代わりにもなります。家庭にも職場にも太陽光パネルとEV、チャージャーがインフラとしてそろっていることがカーボンニュートラルを達成した社会だと思います。

山本:行政はそれらの装置をセットで導入するために補助金を出していますが、弊社として補助金の活用はあまり推奨していません。

なぜなら、4月に補助金の申請開始し、8月から9月頃に申請が通ります。すると翌年の2月頃までに完工するスケジュールになるのですが、実質一年のうち半年間しか施工ができないのです。

つまり、補助金があることで実質半年分の期間しか施工工事ができないのです。補助金で経済的なインセンティブを与えているのですが、そもそも補助金なしでも設置することによる経済的なメリットは十分にうまれますので導入に経済的なネックは少なくなっている、行政にはカーポートの建築に関する規制の緩和を期待します。

秋田:経済的なメリットはすでにあるのに、補助金が出ている訳ですね。

山本:そうなのです。話は変わりますが、実は私は昨年、自宅に太陽光パネルと蓄電池を設置して、EVも購入しました。我が家はカーボンニュートラルを目指し現在ほぼオフグリッドに近い状態で電気を自給して使っています。電力系統網に依存していないので、万が一災害時に停電が起きても電気には困りません。

カーボンニュートラルに向けて再エネへの切り替えが進んでいますが、個人としては脱炭素という実感よりも非常用電源を手に入れたという安心感が最も大きいと感じています。

特に有事の対応が求められる自治体には、レジリエンス的(注)な観点でエネルギーを考えることは重要です。実際、千葉県など大規模停電を経験した地域の再エネへの切り替えスピードは速いです。

注:レジリエンスとは「回復力」や「復元力」という意味。災害の文脈では、被災からできるだけ早く機能回復できるように普段から備えるという考え方になる。

秋田:病院などレジリエンスを重要視し、対策にコストをかけている施設もありますが、一方でコストメリットを厳しく見る企業では、レジリエンスコストを多くかけないという考え方があります。

結局のところ、電池がないことにはレジリエンスにはならないと思います。家庭では問題ないと思いますが、大型施設の場合、その施設全体が利用する電気をEVのバッテリーに溜めた電気だけでは賄えないという問題にぶつかります。

山本:それはおっしゃる通りですね。菅首相(当時)のカーボンニュートラル宣言によって、一気にマーケットの流れが広がり、大小さまざまな需要家が脱炭素に動いてきています。

自立電源である再エネに対する価値を感じてもらえる需要家を優先的に進めたほうがより建設的な話ができると思います。つまり、太陽光発電に切り替えることで費用を安くすることを目指すのではなく、そのほかの電気と比べて同等のコストであれば十分なのです。

なぜなら、これからグリッド(電力系統網)の維持コストが上がり、化石燃料の調達価格も上がります。つまり、分散型電源である太陽光発電以外コストは上昇していくので、電力会社からの電力と比較して現時点で経済的に同等で十分なのです。

秋田:今後再エネ賦課金が上がることが予想されるため、自分たちで電気をつくったほうが経済合理性に合うと考える事業者は増えていくでしょう。

再エネに転換する事業者は電源のリプレイスを起こしていくため、開発コストが掛かりますが、10年、20年で見ていくとコストメリットがでてきます。

山本さんの自宅のように電気を地産地消する家が増えていくと、一極集中型の電源システムも分散型に変わっていくかもしれませんね。

――日本は2050年にカーボンニュートラルは達成できると思いますか。

秋田:カーボンニュートラルを達成するためには、再生可能エネルギーを増やすことはもちろんながら消費者側の行動変容や、電気(発電状況や消費状況)を可視化することも必要だと思います。日本では安定供給を第一に、非常に優秀な電力システムが構築・運用されてきたため、電気は無限にあるものだと思い込んでしまっています。

電気は有限であり、再生可能エネルギーに転換することで発電する時間が不安定にもなります。だからこそ、ダイナミックプライシング(注)のような活用をした消費者側の行動変容を促す仕掛けや、テクノロジーで電気を有効的に利用できるように促進していくことが重要でしょう。

注:需要と供給のバランスに合わせて、電気料金が変わっていく仕組み。供給に余裕がある時間では料金が下がり、逼迫する時間では料金が上がるなど、需要側の電力利用行動の変更を促す効果が期待される。

再エネを増やすことに注目が集まっていますが、再エネを使う、再エネがある暮らしにも意識を持たないとカーボンニュートラルな社会は訪れないはずです。

山本:この火力発電を中心とした集約型の電源システムは50年ほど前からありますが、供給と需要側が連動しておらず、供給側の事情を全く考慮していない需要に対して、供給側が高いコストを払って電力需給をバランスさせている状況です。カーボンニュートラルを達成するためには、最終的にはここをインタラクティブ(双方向)にすることが絶対条件です。

個人的に昨年末より電力系統網に頼らない地産地消型の脱炭素ライフを体感していますが、食洗器などの大型家電を動かすのは発電量がピークとなる日中の11時から午後2時の間に寄せるなど工夫をすれば自給率を高めていくことが可能です。「夜間電力が安い」というのは24時間一定の出力で発電する原発を活かすための概念で10年以上前になくなっています。現在は晴れた日の昼間しか発電しない太陽光発電を最大限活かすためになるべく日中に電気を使うことが電気を最も安く使う方法であり、有力な脱炭素化の方法です。

――最後に、カーボンニュートラルを進める企業に提供できるものは何でしょうか。

秋田:いまは自社だけではなく、取引先などサプライチェーンを含めたスコープ3(注)のCO2排出量の削減が求められています。スーパーマーケットでいえば、店頭に並ぶ商品の製造・流通過程での取引先企業や、さらには来店客との協調がカギとなるでしょう。企業は脱炭素に取り組むことをコストやリスク回避としてとらえるのではなく、機会としてとらえてほしいのです。

注:Scope1(事業者による直接排出)、Scope2 (供給した電気や熱・蒸気による間接排出)以外の間接排出。具体的には原材料の調達や輸送・配送、製品の使用や廃棄などでの排出量を指す。

例えば、スーパーマーケットだと来店客と一緒に取り組むことで、来店頻度を上げることにもつながるし、太陽光パネルを設置することで有事の際の災害拠点にもなります。何かあったときに電気を使える施設だと分かれば、信頼関係がさらに深まります。

山本:私はZ世代がキーになると考えています。環境課題を当事者として捉えることができる世代なので、カーボンニュートラル化という新しい仕事を彼らにどんどん任せていただき、様々な企業と連携して取り組みを進めていきたいという思いを強く持っています。<PR>