ウクライナ侵攻も自然エネ政策は不変

自然エネルギー財団・大林ミカ事業局長インタビュー

ロシアのウクライナ侵攻は、エネルギー安全保障の問題を改めて浮き彫りにした。天然ガスをロシアに依存してきた欧州は、自然(再生可能)エネルギーへのシフトを加速させるだろう。一方で、自然エネルギーだけに依存するのは非現実的で、原子力や化石燃料が不可欠との声もある。そして日本は。自然エネルギー財団の大林ミカ事業局長に聞いた。(オルタナ編集部・長濱慎)

バックキャスティングの発想で、正しい選択肢を取るべきと語る

公益財団法人自然エネルギー財団

東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、2011年9月に設立。2050年自然エネルギー100%を掲げ、自然エネルギーに根ざした社会の実現を目標に、分散型自然エネルギー、エネルギー効率化についての研究、政策提言、情報発信を行う。設立者・代表は孫正義ソフトバンクグループ会長兼社長。大林ミカ氏は、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のアジア太平洋地域政策・プロジェクトマネージャーを経て、財団設立に参加。

■EUはロシアに天然ガスの約40%を依存している

――EU(欧州連合)はロシアに天然ガスの約40%を依存しています。EUが進めていた「脱炭素・自然エネシフト」への影響をどう考えますか。

脱炭素と自然エネルギーへのシフトは、これまで以上のスピードで進んでいくでしょう。EUは2030年に温室効果ガスを55%削減(1990年比)する目標を掲げ、2021年7月に「Fit for 55」という政策パッケージを打ち出しました。

この目標達成に向けて、大きく3つの施策を進めるとしています。1つ目がエネルギー効率化、2つ目が自然エネルギーの拡大、3つ目が電化です。

まずはエネルギー効率化(主に住宅・建築物の省エネルギー政策)を進め、使用するエネルギーの総量を減らします。さらに、自然エネルギーの拡大も継続します。

運輸や熱分野も自然エネルギーによる電化を進め、どうしても電化が難しい工業部門などについては、水を電気分解して作る「グリーン水素」やグリーン合成燃料(メタン、バイオマス)で代替します。これらの燃料を作る電力は、自然エネルギーで賄います。

欧州委員会の中では、これらの施策を速やかに実現することこそがウクライナ危機の打開策につながるという考え方が、大勢を占めています。

■EUタクソノミーの原発・天然ガスはあくまでも「条件付き」

――その一方で、自然エネルギーだけに依存するのは非現実的だとする声もあります。欧州委員会は2月に発表した「EUタクソノミー」で、原子力と天然ガス発電を脱炭素に必要不可欠な手段と位置付けました。

これはよく誤解されるのですが、EUは無条件でお墨付きを与えたわけではありません。原子力については放射性廃棄物の処分を義務付けるなど、極めて高いハードルを課しています。

天然ガスについてもCO2排出量の規定を設けたり、35年までに低炭素ガスに切り替えたりすることが必要です。これらの技術はあくまでも自然エネルギーへの橋渡しであり、これから積極的に開発しようという意図はないのです。

フランスや、EUを離脱した英国は、新しい原子力技術であるSMR(小型モジュール炉)や EPR(欧州加圧水型炉)を開発する選択肢を捨ててはいません。

しかし、これらの本格的な実用化には10年単位の期間が必要で、それを上回るスピードで自然エネルギーの普及が進んでいくでしょう。今やコスト的にも、自然エネルギーが原子力を下回るのは欧州に限らず世界的な常識です。

■ウクライナ危機を対岸の火事とせず自然エネシフトを

――3月4日には、ロシア軍がウクライナの原子力発電所を攻撃しました。

ウクライナには15基もの原子力発電所があります。これだけ多くが密集する地域で大規模な戦闘が行われるのは人類史上初で、本当に恐ろしいことです。ウクライナは1986年(当時はソ連領土)、チェルノブイリ原発事故を経験しました。

日本も東日本大震災で東京電力福島第一原発の事故を経験し、有事における原子力の危険性・脆弱性を思い知ったはずです。さらに言えば、日本海を挟んでいるとはいえロシアは「隣国」です。もちろん今すぐ戦争はないでしょうが、ウクライナ危機を対岸の火事とせずに適切な選択をするべきです。

■日本の自然エネは豊富で、活用しない手はない

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S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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