フロン管理をエクセルからクラウドへ、一括管理で属人化防ぐ

フロン管理の現場からーRaMS 導入事例紹介ー(8)

「20 世紀最大の発明の一つ」とも言われたフロン(CFC:クロロフルオロカーボン)は、それまで有毒な冷媒を使っていた冷凍空調機に大きな進歩をもたらした。ところが、そのフロン類がオゾン層を破壊するメカニズムが発見され、世界で規制が進む。温暖化係数でみても、二酸化炭素の数百倍から1 万倍以上とされる。日本でも2020 年4月施行の改正フロン排出抑制法で、罰則が大幅に強化された。企業はどのようにフロン類を管理していけば良いのか。積極的に課題解決に取り組む企業を紹介する。(聞き手・香川希理=弁護士、記事・松田大輔=オルタナ編集部)

第8 回 クレハ いわき事業所(福島県いわき市)

株式会社クレハ いわき事業所 環境部 湊順子部長/環境管理グループ 鈴木彰友好リーダー/福島幸子氏

聞き手: 香川 希理 弁護士(香川総合法律事務所代表、企業法務とフロン排出抑制法が専門)

1944 年創業のクレハは、家庭用ラップ「NEW クレラップ」などを製造・販売する大手化学メーカーだ。エンジニアリングプラスチックやフッ素樹脂などの技術に強みを持ち、医薬品や農薬なども幅広く手がける。自社技術にこだわり、「どこにも無ければ、創ればいい」(「ナケレバ、ツクレバ。」)を開発精神に掲げる。2024 年3 月期の売上高は連結で約1800 億円、従業員数は約4200 人だ。

いわき事業所は、クレハ最大の生産拠点だ。「NEW クレラップ」など食品包装の原料をはじめ、自動車部品や電気・電子部品に必要な「機能樹脂」、高温炉の断熱材となる「炭素繊維」、電気自動車(EV)のリチウムイオン電池の部材、医薬品など、多種多様な製品を生産する。隣接地で産業廃棄物を処理するなど、環境への配慮も忘れない。2001 年にはISO14001 認証も取得した。(連載・PR)

クレハ・いわき事業所・環境部・環境管理グループ・福島幸子氏

■フロン機器の購入から廃棄まで、RaMS で全拠点の情報を一括化

――貴社では脱炭素やフロンにどのように対応していますか。

気候変動は重要課題の一つです。クレハは、2050 年度までにカーボンニュートラルを実現すること、生産技術の高度化により環境負荷の低減を目指すことを宣言しています。中間目標としては、エネルギー起源のCO2 排出量を2030 年度までに2013 年度比で30%以上削減することを掲げています。

いわき事業所では石炭火力発電設備で自家発電しており、CO2 が排出量の大部分を占めています。現状では、CO2 にフォーカスして脱炭素に取り組んでおり、フロンの使用についての具体的な削減目標は設けていません。フロンに関しては、使用者の立場で管理を徹底し、不適切な漏えいを防ぐことを全社で重視しています。

もちろんフロンは温暖化係数が非常に大きいため、軽視することはできません。機器管理を徹底しなければならず、そのためにRaMS を導入しました。

――RaMS(冷媒管理システム)導入の経緯や導入の決め手は何でしょうか。

クレハは多くのフロン機器を有しており、フロン機器の購入から廃棄まで、一連の工程での管理が重要と感じていました。JRECO の提供するシステム「RaMS」が一連の工程管理に適したシステムであることが導入の決め手となりました。

それに加えて、これまで東京、茨城、福島、兵庫の各拠点でバラバラに管理していたものを、RaMS によって一括で管理できることにも魅力を感じ、2022 年8 月に導入に踏み切りました。

RaMS 導入前は、各拠点がエクセルで管理していました。管理が属人化しがちで、例えば担当者が独自の関数を用いて集計すると、他の担当者が手を加えられなくなってしまいました。

RaMS を導入することで、冷媒の使用量換算をはじめ、拠点ごとの算定漏えい量といった報告が容易になりました。全拠点の情報を一括管理できることは大きなメリットです。

■RaMS 導入でフロン管理を効率化、新たな工夫も

――導入してみて、どのような効果がありましたか。

各拠点の担当者が、それぞれの作業を効率化することにつながりました。不要機器の廃棄など、各担当者が法律を理解したうえで工夫してくれたのもとても良かったです。担当者が理解しやすいように、Q&A や廃棄時のマニュアルといった情報を共有しています。

RaMS はシステムなのですぐに変更できない部分があるものの、そのなかで様々な工夫も生まれました。例えば、「系統名」に課やグループ名を記載し、容易にデータを抽出できるようにしました。その他、表1の「備考欄」には固定資産番号を入れ、償却の記録などと紐づけています。

もう一つ大きなメリットとして、データの集約(RaMS-ex)が簡素化されたことがあります。各拠点が入力したデータは、ボタン一つで集計されるので、全社での経営戦略の策定、算定漏えい量報告書の作成などが、スピーディに行えるようになりました。

これまではエクセルだったので、各拠点のデータをいったんまとめる必要がありました。RaMS を見ながら、本社と各拠点が直接やり取りできるようになり、タイムラグも減りました。

――フロン類機器の運用の現状はいかがでしょうか。

現時点で、会社全体で多数のフロン機器があります。そのうち定期点検該当機器が全体の約10%、休止している機器が全体の約2%になります。いわき事業所の規模が最も大きいため、フロン機器も集中しています。RaMS の一括管理というメリットを活かすために、全拠点に導入しました。

定期点検は専門業者に依頼しています。RaMS を導入していない業者もあり、専門業者には紙で報告してもらっています。それを各担当者がRaMS に登録するかたちをとっています。

――フロン排出抑制法・改正法は、社内で浸透していますか。

段々と浸透してきていると認識しています。クレハでは2020 年から法規教育を行っています。さまざまな環境関連の法律があるなかで、一つ一つ社員が理解できるように、環境部の担当者が年に1回ほど実施しています。

2024年度は廃棄物や資源循環を取り上げる予定です。フロンに関しても、法規の説明や機器の注意事項などについて、写真付きでわかりやすく説明しています。

聞き手:香川希理弁護士(香川総合法律事務所代表)

※1 フロン機器は、第一種特定製品(業務用冷凍空調機器)の略名としています。

■ ■ ■

■JRECO(一般財団法人日本冷媒・環境保全機構)とは

一般財団法人日本冷媒・環境保全機構は、冷凍空調機器からの冷媒フロン類(CFC、HCFC、HFC)の大気放出抑制、使用の合理化及び管理の適正化に係わる事業の推進を、関係事業者との連携及び行政当局との協調のもとで実施している。

事業の一環として2015 年に施行されたフロン排出抑制法の遵守ツール「RaMS」をクラウドで提供する。「RaMS」には主務大臣から認可された「情報処理センター」機能を含み、書面によらない一元管理とデータ解析によるDX 推進が可能だ。

■RaMS(冷媒管理システム)とは

RaMS は第一種特定製品(業務用冷凍空調機器)とその冷媒の管理ができるクラウドシステム。経済産業省と環境省から認可された情報処理センター機能を包含し、法により管理が義務付けられている全書面を電子的に改正法に準拠した形で管理でき、フロン排出抑制法を遵守することが可能になる。

▶代替フロンやRaMSについて詳しく知りたい方はこちら→ yamamoto(a)jreco.or.jp

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #脱炭素

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