核融合研実験、学者や市民から異論噴出

「核融合科学研究所」が計画する重水素実験の是非をめぐるシンポジウム(7日、岐阜県多治見市で)

岐阜県土岐市の「核融合科学研究所」が計画する重水素実験の是非をめぐるシンポジウムが7日、施設が隣接する同県多治見市で開かれた。

核融合発電の実用化を目指して1998年から「大型ヘリカル装置」を運用する同研究所は、研究の進展に欠かせないとして放射性物質のトリチウム発生をともなう重水素実験を始めるため、地元3市と3月末までに協定を結ぶ方針を示している。

土岐と隣接する瑞浪の2市は協定書に調印する方針を固めているが、多治見は住民の不安が根強いとして市があらためて賛否の意見を問う場を設定。400人収容の会場ホールは立ち見やロビーの中継を見る市民であふれ、関心の高さを示した。

■ 小森所長「トリチウムや中性子から受ける影響は微量」

研究所の小森彰夫所長は「装置は蛍光灯と同じで電気が消えれば反応は止まる。実験で発生するトリチウムや中性子から受ける影響は、研究所の入り口にずっと立っていても自然界に存在する放射線の1000分の1以下、体内のトリチウムの15分の1以下で、まったく微量だ」と安全性を強調。

茨城県那珂市で核融合を研究する日本原子力研究開発機構の林巧研究主幹は「那珂の研究所では88年からトリチウムの実験をしており、25年間安全に取り扱ってきた。JT-60(トカマク型実験装置)でもすでに重水素実験が18年間、安全に行われている」と擁護した。

■ 原発とは違う固有の事故の可能性も

これに対し、パネリストの1人として登壇した物理学者で、名城大教授時代に核融合研の名古屋市から土岐市への移転に反対していた槌田敦氏は「核融合は電気磁石の中に膨大なエネルギーをためこむもので、原発とは違う固有の事故が起こりうる。内部被曝の危険性のあるトリチウムを完全に閉じ込めるのは困難で、海や川に捨てるより仕方ない。放射化した装置なども簡単に捨てる場所はない」と異論を唱えた。

小森所長らの「装置のステンレスに含まれるコバルトは放射化しても半減期は5年で、実験が終わって40年たてば装置は放射性物質とは言えないレベルになる」とする反論にも、槌田氏は「半減期何千年という放射性物質もいっぱい発生する。そういうことを市民の前で言わず、話を小さく見せようとしている」と批判。

「核融合実験は旧文部省がヘリカル、旧科技庁がトカマクと分かれて進めていたが、文科省に合併してから、世界的には主流でなくなったヘリカルの実験を一段進めないと予算がとれないため、焦っているのが今回の騒動だ」と鋭く指摘すると、小森所長らは黙り込んだ。

会場からも「人工的な放射性物質はわずかでも出してほしくない」「安全という言葉ばかりで信用できない」といった反対意見が上がり続け、予定を1時間超えて終了した。市は14日までパブリックコメントを募ったうえで最終判断する。(オルタナ編集委員=関口威人)

◆多治見市のパブリックコメント募集のサイト

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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