サントリーが抱く「自称カーボンニュートラル」への懸念

記事のポイント


  1. サントリーは「自称カーボンニュートラル」から脱却を図る
  2. カーボンニュートラルを第3者が認証する「PAS2060」を取得した
  3. この認証を持つ企業は世界に100社程度で日本の食品業界では初だ

サントリーホールディングスは、カーボンニュートラルを実証する公開仕様書である「PAS 2060」を国内の食品業界で初めて取得した。取得した背景には、「自称カーボンニュートラル」が疑わしい目で見られるようになってきたという危機感があった。(オルタナS編集長=池田 真隆)

サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場

サントリーは、「サントリー天然水」の生産拠点である「北アルプス信濃の森工場」で、「PAS 2060」を取得した。

PASとは、Publicly Available Specificationの略称だ。日本語では「公開仕様書」を指す。いわゆる「デファクトスタンダード」と同義だ。

国際規格のISOと比べて、認知度や影響力は劣るが、開発までのスピードが速く、内容に自由度が効く点が特徴だ。PASの発行免許を持つ、BSI(British Standards Institution:英国規格協会)やISOなどの規格策定機関に依頼すれば、企業や政府、NPOなどどのような組織でも作ることができる。近年では、PAS規格をISOに格上げする流れが主流だ。

PAS2060の対象は、製品単位と組織全体の2種類ある。製品はスコープ1~3までが範囲だ。組織全体だと、開示理由に正当性がある場合に限り、スコープ1,2のみを範囲にすることもできる。

対象範囲のカーボンフットプリントを要件に沿った方法で算定し、排出削減を行う。残ったGHG排出量については、指定したカーボンクレジットを購入し、オフセットする。こうすることで、PAS2060に準拠したカーボンニュートラルとして認証を受ける。

現在、PAS2060によるカーボンニュートラルの認証を取得した企業は世界で約100社だ。仏ダノンが展開するミネラルウォーターブランド「エビアン」は、2020年に取得した。59社からなるベントレーアメリカのディーラーネットワークも2023年に取得した。

国内では、2011年に国内第一号として、リサイクルワン(現レノバ)が取得した。今年に入りサントリーが取得したが数社程度だ。

同社のサステナビリティ経営推進本部サステナビリティ推進部に所属する中村太郎専任課長は、「カーボンニュートラルの活動は、世の中的に疑わしい目で見られるようになった。第三者の目で検証してもらい、公明正大にCO2削減に通じるサステナブルな活動を行っていることを宣言したかった」と取得した理由を話す。

国際標準化機構(ISO)はただいま、PAS2060のドラフトをもとに、カーボンニュートラルの厳格化に乗り出している。策定中の規格は「ISO14068」だ。

同規格では、温室効果ガス(GHG)の排出量と吸収量が差し引きゼロになる状態を、「カーボンニュートラリティ」として認証する。2020年から開発を始め、現在、最終版のドラフトを策定中だ。2023年12月ごろの発行を見込む。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #脱炭素

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