サステナブルファイナンス大賞に水田のメタン削減事業

環境金融研究機構(RIEF、東京・千代田)はこのほど、「第9回サステナブルファイナンス大賞」の受賞企業を発表した。大賞には、水田のメタンガス排出を削減し、カーボンクレジットを創出するスタートアップのGreenCarbon(グリーンカーボン、東京・港)を選出した。水田の中干し期間を延長することで、嫌気性菌の活動を抑制し、メタンガス排出量を削減するという。(オルタナ副編集長=吉田広子)

農業分野の脱炭素化は喫緊の課題だ

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の温室効果ガス(GHG)総排出量(2019年)の3割が食料システムに由来する。大賞を受賞したグリーンカーボン社は、約5000ヘクタールの水田を対象として、水田の中干し期間を延長することで、メタンガスの排出削減に取り組んでいる。

中干しとは、水稲の栽培期間中、水田の水を抜いて土壌を乾かすことで、過剰な分げつ(枝分かれ)を防止する作業だ。中干しを一週間延長することで、メタンガスの発生を3割削減できるという。J-クレジット制度は、この「水稲栽培による中干し期間の延長」を方法論として承認している。

藤井良広・RIEF代表理事によると、日本国内だけでなく、東南アジアについてもビジネス基盤として、クレジット創出事業を展開している点を評価したという。

藤井代表理事は「気候関連やESG関連で、同社に限らず、スタートアップ企業の台頭が、国内外で目に付き始めた。サステナブルファイナンス大賞も、これまでの大手金融機関の背中を押す視点から、知恵と脚力のあるスタートアップやベンチャーを掘り起こし、プレーアップする方向に目を転じたいと思っている」とコメントした。

「第9回サステナブルファイナンス大賞」では、大賞のグリーンカーボン社のほか、優秀賞には大和証券など4社、国際賞に2団体、地域金融賞には2自治体、NGO/NPO賞に2団体による活動を、それぞれ選んだ。

RIEFは2015年からサステナブルファイナンス大賞を実施している。その年の日本の環境金融・サステナブルファイナンス市場で活躍した金融機関、企業、関係機関などを、環境と金融の両分野の専門家が、定量評価と定性評価の両方に基づき選出する。

独立した専門家が6分野でスコア化による定量評価を行い、審査員会議での定性評価との総合判断を踏まえ、合議で決定する。

「第9回サステナブルファイナンス大賞」の受賞企業は次の通りだ。

大賞:GreenCarbon

水田の中干し期間延長によるカ―ボクレジット創出事業を軸に、生態系と整合するクレジット事業を手掛けるスタートアップ企業。国内農家のクレジット創出・販売を代替するほか、アジアでも現地企業・大学等と連携し小規模農家のクレジット化による収益支援等を後押しする。同事業をワンプラットフォームで完結するDX化も進めている。伝統的稲作事業と次世代に向けたクレジット事業を、アジア規模で展開するビジネスモデルを評価。

優秀賞:大和証券

今回、国際賞に選ばれたポーランドのBGKやインドネシア政府等によるESGサムライ債の主幹事等を務め、国内でも自治体のブルーボンドや、エクイティファイナンスへのサステナビリティ視点の盛り込み等、サステナブルファイナンスの新領域を積極的に展開した。

優秀賞:東京海上アセットマネジメント 

資産運用機関の金融力とベンチャー企業の技術力を利活用し、サステナビリティに関する新たな領域開発に取り組み。藻場の再生を陸上で実現し、再び海洋に戻して「生物多様性クレジット」を創出する等の事業を展開。資産運用の対象を「近未来の技術開発」に応用へ。

優秀賞:西松建設

2030年に向けたCO2削減ロードマップに、スコープ3(建物の使用に伴う排出量)目標を盛り込み、同目標達成をSPTとしたサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)を発行した。同SPTには「年度ごとの削減率」を設定する等、実質削減に拘った取り組みを主導した。

優秀賞:三菱UFJアセットマネジメント

ソブリン債へのエンゲージメントにより投資効果を獲得する試みをESGインテグレーションの一部として実施。2023年11月までに14カ国と計31回のエンゲージメントを実施。PRIの集団エンゲージメントフレームワーク(ASCOR)開発のランドテーブルにも参加。

特別賞 :「グリーン共同発行団体」

地方公共団体が共同して機関投資家向けの公募地方債を発行するスキームを活用して初の「グリーン共同債」を発行。総務省もフレームワークの作成等で支援した。42の道府県・市が参加。第一回債は500億円発行。地方公共団体のグリーン事業の財源確保に資する。

国際賞 : BGK(ポーランド開発銀行)

ロシアのウクライナ侵攻で、中東欧で最大のウクライナ難民の受け入れ国であるポーランドのBGKは、同国政府のために管理する「ウクライナ支援基金」を通じて、難民支援の医療、教育、住宅支援等の人道支援の資金調達で初のサムライ債を発行。

国際賞 : インドネシア共和国 

同国は2009年以降、ほぼ毎年サムライ債を発行。安定した発行体として日本の投資家に評価されている。今回は、資金使途を海洋環境保全、持続可能な漁業、海洋災害対策等に集中させた初のブルーサムライ債を発行、サムライ債市場の多様化に貢献した。

地域金融賞:岩手県

わが国の地方公共団体で初めて、資金使途にブルー事業を組み込んだ「グリーン/ブルーボンド」を発行。ブルー事業は三陸沿岸の藻場再生、漁場内のがれき撤去、水産高校実習船整備等。発行額に対し6倍の投資家応募があり、他の公共団体への波及効果も高かった。

地域金融賞:千葉市

岩手県のグリーン/ブルーボンドを一歩進め、資金使途を全額「水の循環」に関するブルー適格事業とするブルーボンド発行。首都圏自治体として、工業排水等を適切処理するインフラの整備で海洋汚染を防止し、持続可能な水資源利用の仕組みを強固にする。

NGO/NPO賞 : NPO法人気候ネットワーク・(一社)日本環境法律家連盟

日本最大のCO2排出企業のJERAが石炭火力でのアンモニア混焼を「CO2の出ない火」等と宣伝する広告は「グリーンウォッシュ」として日本広告審査機構に中止勧告を申し立て。ウォッシュ広告の「告発」は日本で初。関西電力、電源開発についても追加申し立て。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #脱炭素

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