続「間違いだらけの生物多様性」① エンゲージメントがメディアの役目

オルタナ本誌では、2010年6月号第一特集で「間違いだらけの生物多様性」(誌上座談会)を掲載しました。本稿では、その続きを掲載します。さらに続きは「オルタナ・プレミアム」に掲載します。
(オルタナ・プレミアムについてはwww.alterna.co.jp/premiumをご参照下さい)

【パネリスト】
足立直樹(株式会社レスポンスアビリティ代表取締役)
粟野美佳子(WWFジャパン 自然保護室生物多様性条約担当)
川廷昌弘(博報堂DYメディアパートナーズ環境コミュニケーション部部長)
森 摂(オルタナ編集長)
(本誌オルタナ19号からの続き)

左から足立直樹氏、粟野美佳子氏、川廷昌弘氏、本誌編集長・森
左から足立直樹氏、粟野美佳子氏、川廷昌弘氏、本誌編集長・森

生物多様性と日本企業を考える時に、川廷さんは何に期待しますか?

川廷 僕はメディアに期待します。今回COP10があるので、名古屋の方たちがすごく勉強していて、各紙、みんな特集ページを組んでいます。テレビ局も一生懸命、生物多様性の特番を組もうとしています。

盛り上がりを作るのはやはりメディアだと思うし、そこに良いコンテンツがあれば、企業もそこに協賛しやすい。中途半端なコンテンツだと企業も乗りにくいですが、メディアが一生懸命報道してくれれば、それだけ情報発信の場が作れます。

そういう意味でもCOP10はうまくメディアが乗っかってくれるといい。今、広告会社の立場と市民団体の立場でかかわって、いろいろ情報共有しながら作っています。東京のメディアもその流れに乗って、ぐいぐいと情報発信をしてほしい。

先ほどから企業の広報担当者の方の話も出るのですが、やはり記者の人をはじめ、編集や営業、広報局の人たちも、生物多様性の勉強をしてほしい。この問題は環境という小さな話ではなく、われわれが生活するのにすべてに影響している話なので、メディアで伝える側の人たちが理解をしてくれないと。企業だけでは限界があります。

先ほど、足立さんからメディアも今の市況が厳しくて大変でしょうという話がありました。おっしゃるとおり大変です。新聞やテレビの広告収入は減少しています。今、メディアもそういう構造改革の時代を迎えています。

ご存じのようにツイッターやユーストリームなど、いわゆる「ソーシャルメディア」が台頭して個人が情報を発信できる時代になりました。
これは言ってみればメディアも努力しなければならない時代ということで、ソーシャルメディアをうまく利用して、統合コミュニケーションでうまく相乗効果を生んでデザインする。そういう新たな改革の時期が来ているので、メディアもコミュニケーションの方法をこの数年で変えていかないと凋落してしまうし、生物多様性の理解もなかなか行き届かなくなる。その意味では、メディアの責任はとても大きいと思います。

オルタナ編集長・森 摂
オルタナ編集長・森 摂

ここで忘れてはならないのは、生物多様性を一過性のブームにしてはいけないということです。先ほど川廷さんが、コミュニケーションも短期決戦ではなくて長期、5年10年、20年という取り組みも必要であると言われました。ところが日本企業はなかなかそういう長期の取り組みが苦手だったりもするわけです。生物多様性をブームに終わらせないためには何が必要でしょうか。

粟野 先ほど、「企業がコミュニケーションになかなか乗ってこない」とか「いやそれが良い」といった話がありました。実は私がこの間、企業の方に提言した部分でもあるのですが、特に生物多様性のコミュニケーションは、プロセスコミュニケーションにならざるを得ないのです。

結果が出ました、というコミュニケーションは、まず無理です。CO2削減であればこうだって言えますが、生物多様性はほとんど数字的に出てきません。やはり「当社はこれをやりました」ではなく、「当社はこれをやっています」というコミュニケーションにならざるを得ない。でもだからこそ、独自のコミュニケーションパワーが発揮できると思います。日本の場合、企業のコミュニケーションパワーを消費者が割と純粋に受け止めるので、非常に企業にシニカルなヨーロッパとは違う。企業の情報発信を割とストレートに受け止めてくれる。

ですので、そのプロセスコミュニケーションによって、消費者も自分がそのプロセスの一員として感じる機会を持てると思います。なんでもかんでも企業に頼ろうとは思いませんが、この問題を私たちはやっていますというと、消費者がそこで初めて気付く。そこで、あなたの意見をお寄せ下さいとか、この広告をどう思いましたか等と問い掛けかけられたら、消費者も「知らなかった」「すごく良いことを知った」となる。

次に、あなたは私たちの企業に何を期待しますかと問い掛ければ、さらにそこで、自分自身がその企業のプロセス、生物多様性のプロセスの一員になっているという気持ちを持つことができる。こうしたプロセスで、いわゆる「エンゲージメント」ができると思います。エンゲージメントとは、ロイヤルティーの高いカスタマーづくりに有効です。商品開発で、モニターのように参加した消費者は、やはり自分の声が反映されたと思うので、その商品には特別な愛着を持つのと同じように、この企業の環境への取り組みに自分の声が届いていると思うと、その企業のこれから先の環境への取り組み、生物多様性の取り組みに対しても興味関心を持つのではないでしょうか。

それは企業にとっても、ものすごくプラスだと思うんですね。生物多様性はそういう意味で、やれているところまで出す、やれていないところはやれていない、でもだからこそあなたの力も必要です、という形で巻き込み型のコミュニケーションを考えていくのがいいんじゃないかと思います。

なるほど。非常に面白いですよね。ブランドづくりというのは、企業と消費者の長期の関係を築くということですから、そういう意味でも、生物多様性というのは非常にそれに沿ったテーマだと思いました。

川廷 まさに博報堂DYグループも「エンゲージメント・リング」という取り組みを始めているのです。生活者の意識の中に入っていくことが大切で、その絆づくりが一番企業にとっては大切。そういうコミュニケーションをデザインしていくと、個人で情報発信できるソーシャルメディアはすごく大きく、企業にとってツールになるということです。

そういう絆づくりをすることで、生活者一人ひとりが発信する側になっていく。これはもう数年前から始まっていることですが、そこに生物多様性というテーマは本当にうまく合致していくと思います。いろいろと企業のお手伝いも始めているので、今のお話はビビッドに響くお話ですね。

そうですね、だんだん話が明るくなってきましたね。良いですね。

※この続きはオルタナ・プレミアムにて。
abc@alterna.co.jpまでお申し込み下さい。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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