[映画評]アテネを捨てるギリシャの若者を記録 「ハッピー・リトル・アイランド」

国の財政収支が悪化し、経済危機に瀕するギリシャ。首都アテネでの生活に見切りを付けた若者が、「長寿の島」への移住を決断する――。10月11日(土)に公開の映画「ハッピー・リトル・アイランド」(ニコス・ダヤンダス監督、2013年ギリシャ、カラー52分)は、ギリシャで若者が田舎暮らしにチャレンジする姿を記録した、等身大のドキュメンタリーだ。(オルタナ編集委員=斉藤円華)

映画「ハッピー・リトル・アイランド」より
映画「ハッピー・リトル・アイランド」より

ギリシャは折からの経済危機により、国民の3分の1が貧しく、若者の半数が無職という。「アテネに希望はない」。都会の生活を捨て、若者が目指した新天地は同国のイカリア島。エーゲ海に浮かぶこの島は人口約8千人、広さは石垣島より少し大きい。沖縄、イタリアのサルディーニャ島などと並び、長寿の島として世界的に知られる。

島で人々は、農作業を中心に働き、自給自足的に暮らす。ここでは家族や近所とさかんに交流し、困り事があれば地域全体で協力する関係が伝統的に築かれている。こうした農的な生活と支え合いが、長寿の要因だとする指摘もある。

決して経済的に豊かと言えない島では、安定した雇用は少ない。代わりにオリーブの実の収穫やジャム作り、ハチミツの収穫、雑貨屋の店番など、雑多な仕事はある。人々はこれらを組み合わせて生計を立てているのだが、結果として経済危機の影響から生活を防衛できているのは興味深い。思えば高度成長期より前の日本でも、雑多な仕事が「生業(なりわい)」として成立していた。

さて、アテネでIT関係の仕事をしていた若者。貯金をはたいて島で土地と家を手に入れ、念願のスローライフを夢見る。しかし育てた作物は干ばつに遭い不作。そして人間関係でも孤立する。果たして若者は、島に定着できるのか? 地方移住でありがちな失敗に直面する若者の姿は、新しい時代に向かう「産みの苦しみ」のようにも見える。

映画は東京・渋谷のアップリンクで上映。後、横浜、大阪、京都で順次公開が予定されている。

映画「ハッピー・リトル・アイランド」公式サイト

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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