「規制」については、途上国では公正な競争のための規制が不十分なケースもあるのですが、逆に過度の規制がなく新しい技術が展開しやすい面もあります。例えば、低コストで診断が可能な切手サイズの診断用検査紙は、規制が厳しくない途上国で先に普及しています。
「好み」も途上国では異なります。ペプシコは、インドでトウモロコシではなく、レンズ豆を原料としたスナック菓子を開発し、成功しています。
こうしたギャップを踏まえ途上国向けに開発された製品は、先進国市場で提供されている製品がオーバースペックとなっている場合などには、先進国市場でも普及する可能性がありますし、先進国で新しい市場を切り開く可能性もあります。
例えば、中国向けに開発された、安価で、携帯性に優れ、特別なノウハウを必要としないGE の小型超音波診断装置は、先進国で、救急車内、遠隔地の事故現場、救急救命室、手術室など、これまでの製品が対応できていなかった新しい市場を開拓しています。
リバース・イノベーション≒ CSV
先進国企業が新興国でイノベーションを創出している事例は、医療、環境、食糧、通信など、生活に密着した領域が中心です。「社会の課題と企業の利益を両立させるCSV領域」にこそリバース・イノベーションの機会があります。
また、「性能」「インフラ」「持続可能性」などをゼロベースでとらえなおすリバース・イノベーションは、よりシンプルで資源・エネルギー利用や環境負荷の少ない製品開発にもつながります。これは、先進国で求められるCSVでもあります。
日本社会とともに発展してきた日本企業には、社会とともに発展するCSV≒リバース・イノベーションを実践する力が本来あるはずです。
新興国の社会とともに発展することを目指すリバース・イノベーションの実践は、社会の課題を俯瞰した製品開発ノウハウの蓄積、異なる習慣や価値観に触れることを通じたグローバル人材の育成にもつながります。グローバルで事業展開する企業に不可欠な取り組みと言えるでしょう。
【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/サステナビリティのコンサルティングを主業務とする。
(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第7号(2013年4月5日発行)から転載しました)
水上 武彦氏の連載は毎月発行のCSR担当者向けのニュースレター「CSRmonthly」でお読みいただけます。詳しくはこちら