エコ賃貸を始めてみたが、エコビジネスは難しい。(3)

ガイアのケースをもっと拡張して、前述のような思考を経て、我が物件については次のようにすることとした。

すなわち、この追加投資の部分は、オーナーと住み手の共同利益を生むものと見て、その単純利回りは、賃貸ではぎりぎりの利回りの5~6%でもよい、すなわち、絶対額に直せば、せいぜい1万500円から1万2000円だけ、普通の家賃に上乗せできればよいと、考えた(新築の2LDK、井の頭線駅歩約3分の相場である20万円弱にこの1万円強を加え、管理費込みの賃料は月額21万円ということになる。)。

これであれば、住み手に生まれる便益を、みな、家主が奪い取るということには到底ならない。ディールは可能であろう。

賃料は相場よりは高い。しかし、このような、オーナーと住み手との間の利益分け合いのビジネスモデルが当たり前になってエコ賃貸が普及をすれば、住み手も喜ぶし、資金の貸し手も、建築する会社も、物件を管理する不動産屋さんも、賃料や建築費の増高に伴って潤うことになろう。

また、したがって、マクロの経済も潤うし、住宅のCO2排出量が減って地球も喜ぶことになろう。三方良しどころか、五方も六方も良いのである。よし、この賃料を前提に、環境性能などのスペックを落とさず建設し、そして、上市しようと決めたのであった。

五方よしのエコ賃貸
五方よしのエコ賃貸

■ 現実は厳しい

しかし、ビジネスは一筋縄ではいかない。お店を開いて約半年になるが、住み手はまだ一軒にしか付かないのである。

幸い、その一軒の住み手は、再生エネルギーをお仕事にする方であって、エコ賃貸の有用性は直ちに理解していただいた。他方、現場をご覧になったお客様で、最終決断しなかった理由のほとんどは、前の庭が、純粋に庭のために使われていて自家用車が置けない、ということにあった。

こうした選択・非選択の理由から考えると、賃貸でエコ生活ができる、そしてそれが、お財布的にも、健康的にも、安全・防災上も有利である、ということが一般に十分に知れ渡たっていないことが、エコ賃貸普及の大きなネックになっているように思えるのである。

そこで、残り限定一軒については、賃料を下げて無理にお客を付けるのではなく、じっくりとエコ賃貸のメリットを宣伝し理解していただく中で、そのことを納得した方をお客様に迎えよう(そして、そのことこそが、長い目では、エコ賃貸賃料のキャッシュフローを大きくすることにつながるだろう)と考える今日この頃である。

環境はタダで使えるのが当たり前で、言い換えれば、環境にお金を払わないことが長い習わしになっている中にあって、環境に良いことをすることでお金を稼ぐ、というビジネスの道はなお険しいことを実感する今日この頃でもある。頑張ろう。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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