もう一つの民主主義を、「企業レポート」で育てる3つのアイデア[中畑 陽一]

企業についてある程度自分なりに知り、意見を持つことができたなら、それを家族や友人に話してみましょう。ブログやフェイスブックにアウトプットするのもいいかもしれません。「○○自動車は従業員の健康や喫煙率にも気を配っていてすごい」「いや、やり過ぎじゃないか」「○○建設は、環境経営に力を入れているけれど、木材の調達先についてあまり書いてないね」みたいな議論が出てくるかもしれません。

だいたいは「いいね!」で終わりかもしれませんが、ともあれ発信することが大切です。ネットを利用してオープンに意見交換できるプラットフォームが整備されれば、そうした流れは加速するかもしれません。その場合は実名でお互いを尊重した議論が必要になると思われますが。

3 株主として意見する

例えば、自分の応援したい企業が見つかったら、商品を買うのもいいですが、長期保有を前提として株主になってみてはいかがでしょうか。株を買うと企業のことをさらに応援したくなると共に、複眼的な企業評価が可能になることでしょう。

そうした立場から意見することで、自らの見識も深まるとともに、企業サイドもより耳を傾けてくれるでしょう。株式を保有するという事は、企業のオーナーになるということでもありますから、取締役の選任などの議決権も得ることができ、より深く企業に関わることができます。

その際に参考になるのは、アニュアルレポートや、まだ数は少ないですが急速に増えている「統合レポート」です。その企業の戦略、ビジネスモデル、財務情報に加えてリスク情報、ガバナンス、環境・社会経営なども含めたいわゆる非財務情報も加わり総合的に把握できて非常に便利です。まだ発展途上ではあるものの、今後はより財務と非財務の関わりも見えやすくなっていくことでしょう。

なお、株式投資は元本割れをするリスクもありますので、売買は自己責任でお願いします。

■ 重要なのは逆の立場を考えること

最後に、コーポレートコミュニケーションを促進するための前提条件について。意見する際には、一方的で感情的なものでは聞き入れられないので、企業及びその他のステークホルダーの立場を考えつつ、課題解決への提案・アイデアとして行う必要があります。企業としても開示するのはコストも手間もかかり、何より勇気がいることです。

建設的な意見や課題の指摘を行う人が増えることで、多様なステークホルダーのアイデアが企業活動や開示情報の改善を触発する良い循環が生まれるのではないでしょうか。

ということで、2000年代に入って加速度的に発展を遂げてきた企業レポートの役割拡大を民主的に促すという少し目線を変えた提案をしてみました。「民主的に」と言うのは、民主主義は政治のみが対象とは限らないし、必ずしも多数決である必要もないのではないか、ということを含意しています。

企業活動について、意見したい人が主体的に意見し、企業と社会の関係性についての目利き力をも養う機会が「企業レポート」を通して可能となることを願っています。私もさっそくCSRレポートを取り寄せて熟読し、自分なりに良い点、悪い点をフィードバックしてみました。皆さんもこれを機に、企業レポートを通したもうひとつの民主主義を育てていきませんか?

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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