「教育CSV」、キーワードは「途上国」と「ICT」【世界を変えるCSV 戦略】

「途上国」関連では、バリューチェーンのCSVと競争基盤のCSVがホットです。バリューチェーンのCSVに関しては、多くの企業で、グローバル人材、多様性を受容する人材の育成が行われていますが、途上国における社員教育も重要なバリューチェーンのCSVです。アジアの日系企業を対象とした調査によると、2社に1社が「現地人材の能力・意識」を問題としています。この経営課題に対応して、アジアを中心として人材育成の取り組みが進められています。
 
トヨタは、インド南部のバンガロール郊外の「トヨタ工業技術学園」で、成績優秀だが貧困のため進学できない若者に一般教養とクルマづくりに必要な知識・技術を教育し、採用しています。ミネベアは、読み書きのできない社員が多いカンボジアで、無償でクメール語教室を開いています。自社の社員または自社で採用する人材に限らず、事業展開地域で人材教育を行う場合は、競争基盤のCSVとなります。

■企業事例も続々と
シスコは、教育機関とともにインターネット技術者を育成するための教育プログラムである「ネットワーキングアカデミー」を、途上国を中心に世界165カ国、1万カ所で展開しており、毎年約100万人を教育しています。

インターネット関連機器をコア事業とするシスコにとっては、各国におけるICT市場の発展が将来の成長のカギとなります。途上国などでインターネット技術者を養成して、ICT市場を創造することは重要な意味を持ちます。例えば、ブラジルではICT市場の発展により、015年までに10万人の技術者が必要になると予測されています。シスコにとっては、技術者不足がブラジルのICT市場発展の制約とならないようにすることが必要です。
 
ユニ・チャームは、インドで国際協力機構(JICA)や現地NGOと協力して、女子生徒に対して初潮についての講習会を実施。体にどんな変化が起き、どう対応すれば良いか、生理用品をどう使えば良いかなどを教えています。地元の女性ボランティア100人を育成し、地域ごとに講習会を開催し、約1万人の女子生徒に対する講習を予定しています。
 
知識不足もあって生理用品が普及しておらず、生理中は学校を休んだり外出を控えたりすることが多いインドにおいて、衛生用品についての啓発を行い、自社製品の普及と女性の社会進出を支援するという競争基盤のCSVを実践しています。「教育CSV」は、バリューチェーンを中心に、多くの企業にとって検討する価値のあるものだと思います。

【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/ サステナビリティのコンサルティングを主業務とする。ブログ「CSV/ シェアード・バリュー経営論」共著『CSV 経営』(NTT 出版)

(この記事は、株式会社オルタナが2014年2月5日に発行した「CSRmonthly 第17号」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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