記事のポイント
- 環境保護、食料問題など、多岐にわたる分野でAI活用が加速する
- 膨大なデータを読み込み、従来困難な分野でのソリューションを提示
- AIがどのようにSDGsの目標達成に寄与しているのか
環境保護、食料問題、産業の最適化など、多岐にわたる分野でAI活用が加速している。膨大なデータをディープラーニングすることで、従来難しいとされてきた様々な分野でのソリューションを提示している。本コラムでは、具体的な事例を交えて、AIがどのようにSDGsの目標達成に寄与しているのかを紹介する。(サステナビリティ・プランナー=伊藤 恵)

■ザトウクジラの保護にAI技術を活用へ
絶滅危惧種であるザトウクジラの保護にAI技術が活用されている。海中の環境音からノイズを除去し特定の音のみを抽出できる技術をAIで実現。
この技術によって、周囲の雑音が多い海中でもザトウクジラの声を正確に捉え、ザトウクジラの位置を高精度で予測できるようになった。AIが、野生動物の保護活動に寄与している事例だ。
■高精度の天候予測技術による水資源の節約も
農業の分野では、AIを活用した高精度の天候予測技術が水資源の削減に貢献している。AIが予測した気象条件に従って農業用水を適切に管理し、農家の作業スケジュールを最適化することで、水の使用量を削減しながら収穫量の増加を実現できる。
また、センサーとデータ分析を組み合わせて、薬剤散布や収穫のタイミング決定を支援するなど、AIを活用したスマート農業技術の開発がすすんでいる。
■職人の目利きをAIが再現「TUNA SCOPE」
AIは漁業分野でも画期的な変革をもたらしている。電通が開発した「TUNA SCOPE」は、マグロの品質判定をAI技術によって行うシステムだ。マグロの尾の断面の画像から品質を判定する。長年の経験により磨かれた目利きの技術をAIのディープラーニングによりだれでも再現が可能になった。
インドネシアでは、マグロの検品基準が曖昧で、検品者の技術や経験によるばらつきが問題視されていた。この課題を解決するため、「TUNA SCOPE」を導入し、品質評価基準をつくる実証をすすめていく。
品質評価の透明性が向上することで、公正な取引の実現ができれば、マグロにも適切な価格が設定されるだろう。現地の漁業従事者の収益向上にもつながるため、産業全体の持続的な発展への寄与が期待されている。
このように様々な分野で貢献をしているAIだが、メリットばかりではない。AIの学習には大量のデータ処理が必要であり、膨大な電力を消費する。
また、冷却するためのエネルギーも必要になってくる。マサチューセッツ大学の調査によれば、あるAIモデルのトレーニングにかかるCO₂排出量は、自動車1台が新車から廃車になるまでに排出する量の約5倍に相当するという結果も出ている。
AIが進歩し普及するほど、環境負荷が増大する側面も無視することはできなくなってくるだろう。開発者や企業は、再生可能エネルギーを活用したデータセンターの導入など、環境への影響を最小限に抑える工夫を進める必要がある。AI技術を活用しながらも、持続可能なエネルギー利用を模索し、環境に配慮した運用を実現することが求められている。