従業員と消費者の健康を守り、子孫にきれいな土壌を残す――ワイン大国フランスのオルタナティブなワイン造り(1)[俵 麻呂]

連載:ワイン大国フランスのオルタナティブなワイン造り(1)
「シャトー・パルメール」(AOCマルゴー、格付け第3級)
トマ・ドゥルー氏(ディレクター、ワイン醸造家)

トマ・ドゥルー氏(ディレクター、ワイン醸造家)
トマ・ドゥルー氏(ディレクター、ワイン醸造家)

オーガニックワインと言えば小さな生産元が拘りで造る個性派ワインというイメージが強いが、最近は、ボルドー最高級ワインのシャトーも取り組み始めている。その理由の一つは、フランスの農地面積の3.7%のぶどう畑で、総消費量の約20%が使われている農薬による健康被害だ。ボルドー地方のメドック地区は、1855年の格付けワイン(※1)の豪華なシャトーが集まる最高級赤ワインの産地だが、農薬の使用量が多いことでも有名で、犠牲者が出てスキャンダルになっている。(パリ=ジャーナリスト・俵 麻呂)

■10年以内にボルドー格付けシャトーの95%が有機栽培に転換

その地区のマルゴー村にある「シャトー・パルメール」(AOCマルゴー、格付け第3級)(www.chateau-palmer.com)は、メドック格付けシャトーの中で、いち早くぶどう畑(55ha)を全て、有機農法の一つである「バイオダイナミック農法」(※2)に切り替えた稀なケースだ。

ぶどう畑の空き地に咲いている野花
ぶどう畑の空き地に咲いている野花

その決断をして、株主(19世紀のオーナーの子孫75人)を説得したのは、ディレクターのトマ・ドゥルー氏(43)。

所謂イデオロジーによるものではなく、客観的な立場で、神秘的と言われているバイオダイナミック農法とその醸造法を科学的なアプローチで実践している。

「土壌を保護する、従業員と消費者の健康を守る、消費者の環境・健康志向、という理由からぶどうの有機栽培への転換の必要性は明らかだった」と語るドゥルー氏。

株主たちも健康できれいな土壌を子孫に残すことの重要性を直ぐに理解したそうだ。但し、予想外の気候条件などによって、コントロールできない状況になった時は、化学薬品の使用に踏み切ることが条件になっているという。

※1 1855年の格付けワイン
1855年のパリ万博への出展の際に、ボルドー商工会議所が実施した最高級ワインの格付けで、現在まで殆ど修正無しに特権を維持している。赤ワインの格付けの対象となったメドック地区には、61件の格付け(第1級~第5級)シャトーがある。

※2 バイオダイナミック農法
オーストリアの人智学の創始者、ルドルフ・シュタイナー(1861~1925年)が提唱した有機農法。化学肥料や農薬の禁止はもちろん、作物に影響を与える天体暦に添った農作業、特殊な自然調合材の利用など、規制が多いが、フランスでバイオダイナミックワインの評価は高く、この農法を導入するワインメーカーが増えている。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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