記事のポイント
- TICAD(ティカッド)9が横浜宣言を採択し、「多角的貿易体制」を強調した
- アフリカは、健康、教育、社会保障など社会的欠陥を抱える
- 日本政府は民間投資を促し、ビジネス機会の拡大を狙う
TICAD9(第9回アフリカ開発会議、ティカッド)が8月20~22日横浜市で開催され、最終日には「横浜宣言」を採択した。議長を務めた石破茂首相は、「保護主義がマクロ経済の安定を脅かしている。WTOを中核とするルールに基づく開かれた多角的貿易体制の重要性と迅速な改革の必要性を再確認する」と強調した。(オルタナ総研フェロー=室井孝之)

ティカッドは、日本政府の主導でアフリカの開発や支援を話し合う国際会議だ。第1回は1993年に開き、TICAD9には、アフリカ54カ国のうち49カ国が参加した。
アフリカの人口は約14.6億人(2023年)だが、2050年には24億人を超え、世界の4分の1を占める見通しだ。年齢中央値は2050年に24.4歳、人口が約38億人となる2100年には35.1歳と予測されている。
「若い人口構造と豊富な資源」として世界の注目を集める一方、持続可能な経済、包摂的な社会、永続的な平和・安全・安定の実現に向けた課題がある。
採択した横浜宣言「革新的解決の共創、アフリカと共に」の要旨は次の通り。
1)現状
1)保護主義が世界貿易を減速させ、世界の不平等が拡大し、インフレ圧力の高まりがマクロ経済の安定を脅かしている。
2)気候変動、エネルギー不足、デジタル技術、サイバーセキュリテイ、防災、人間のウェルビーイング等地球規模の課題が絡み合う中、健康、教育、社会保障など社会的欠陥に対応するため、人間の安全保障の概念に基づく協力を強化する。
3)TICAD9は、国際法の原則に基づく自由で開かれた公正な国際秩序を促進する、包摂的かつ責任あるグローバルガバナンス構築を支援する。
2)TICADの3つの柱「経済・社会・平和と安定」
- 経済
- アフリカ諸国の信用格付が低いことのよる資本コストの高さと債務返済コストの高さにより脆弱性が悪化し、アフリカの資源が開発資金に充てられなくなっていることに懸念している。
- アフリカ信用格付機関(AfCRA)の設立を歓迎し、完全な運用開始を待ち望む。
- 人工知能(AI)を含むデジタル変革を推進する環境を共創する。
- 自由で開かれた公正な貿易や投資環境を通じてアフリカ諸国をグローバルサプライチェーンに統合する。
- 道路、鉄道、海上、航空の各輸送形態にわたる持続可能かつ強靭なインフラネットワークへの投資加速にコミットする。
- 包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)に沿い、アフリカの農業及び食料システムの変革への決意を再確認する。
- 世界貿易機関(WTO)を中核とするルールに基づく開かれた多角的貿易体制の重要性とその改革の必要性を再確認する。
- 社会
- 若者、女性、障がい者のエンパワーメントに焦点を当て、人間中心の保健、教育、社会サービスへのアクセスを拡大する取り組みを推進する。
- パンデミックの予防等保健システムの強化により、アフリカの社会開発を支援する。
- アフリカにおける仙台防災枠組み2015-2030行動計画の重要性を再確認する。
- アフリカのきれいな街プラットフォーム(ACCP)の下、廃棄物管理インフラの開発を促進する。
3)平和と安定
①アフリカ大陸における平和のための努力を支援し、紛争、テロ、暴力的過激主義対処に引き続 き取り組む。
②アフリカ大陸の一部で蔓延している深刻な人道状況に懸念を表明し、適切で持続可能で柔軟な資金を提供する。
石破首相は、議長総括として、「日本は、アフリカ各国の人々と共に笑い、泣き、汗をかく信念である」と締め括った。