記事のポイント
- ブレグジットから5年、英国ではEU離脱を後悔する「ブレグレット」が広がる
- 2025年6月の世論調査では、EU離脱は失敗だったと考える人が56%に上った
- ブレグジットは英国経済に長期的に4%のマイナス影響との予測もある
世界が自国第一主義に傾き始めた象徴的な年がある。2016年だ。英国では国民投票でブレグジット(英国のEU離脱)が僅差で決まり、同年秋の米大統領選では下馬評を覆してトランプ氏が勝利した。EUから離脱して5年目を迎える英国では今、国民の過半数がEU離脱を後悔している。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

■EU離脱派さえ「後悔」を認める
2016年6月23日、英国は国民投票でEU離脱を決定した。投票前の複数の世論調査では残留派がわずかにリードしていたにもかかわらず、結果は離脱派が51.89%、残留派が48.11%と極めて僅差だった。
その後、3年半にわたるEU側との交渉や英国内での政治的・法的論争、3人の首相の交代などを経て、2020年、ボリス・ジョンソン首相(当時)が「ブレグジットを成し遂げる」との公約を実現した。
それから5年が経った今、英国では、ブレグジットを後悔(リグレット)する「ブレグレット」が広がる。英世論調査会社ユーガブが2025年6月に実施した調査では、「ブレグジットは失敗だった」と考える英国人は56%と、「成功だった」の31%を大きく上回った。
実は、2022年7月下旬以降、「ブレグレット」の割合は一貫して50%超で推移している。「EUへの再加盟を望む」は56%、「EUとのより緊密な関係を望む」は65%となっている。
エコノミスト誌は、「国民投票の結果後、有権者が意見を変えることはまれで、通常は結果への支持を強めるが、ブレグジットは例外だ。誤りだったと考える人の割合は増加している」と報じる。
年代別では、離脱賛成票は圧倒的に高齢層によるものだった。若年層はEU残留と人の移動の自由を維持することを望んでいた。
「これがブレグジットの過ちの一つだ。離脱の結果を生きながら見ることのない人々が投票し、残留によって得られるEU域内での就労といった潜在的なチャンスを享受できなくなる若い世代は、当時、投票権を持たなかった」と同誌は報じる。

■EU貿易関税で経済に悪影響が
2025年1月の調査で、「ブレグジットが失敗だった理由」として多く挙げられているのが、生活費と英国経済への悪影響だ。

オルタナ編集部にて和訳・作成
親EU団体のヨーロピアン・ムーブメントUKのニック・ハーヴェイCEOは、「ブレグジットは英国経済を持続的に悪化させている。特に商業・産業の基盤を成す中小企業への影響は深刻だ。経済が疲弊し、我々は貧しくなり、無数の小さな傷が国を弱体化させている」と語る。
調査会社モア・イン・コモンは、EU離脱派からも後悔の声が聞こえると報告する。「ブレグジットは日常生活の中でも特に食品価格に影響を与えた。EUから輸入する食料品をはじめとしたあらゆる商品が値上がりした」
ブレグジットによる影響を、パンデミックやロシアによるウクライナ侵攻後の原燃料価格の高騰や高インフレといった経済的衝撃から切り離して評価するのは難しい。
しかし英国政府からの独立機関で経済・財政予測や政府の財政目標達成状況を評価する予算責任庁(OBR)は定期的に「ブレグジット分析」を公開する。
OBRの2025年7月の発表によると、英国-EU間の貿易関係では、ブレグジットによって、残留していた場合に比べ、英国は長期的に生産性が4%低下するという。輸出入はどちらも長期的に約15%減少の見込みだ。
英国にとってEUは、貿易の半分を占める最大の貿易相手国だ。しかしEUにとっては英国向け輸出は全体の22%に過ぎない。ブレグジットが貿易に与える影響は、EUよりもはるかに英国にとって優先度が高い。
シンクタンクのUK・イン・ア・チェンジング・ヨーロッパは、報告書『ブレグジット・ファイルズ』の中で、「全体的にブレグジットは『大事故』ではないものの、ある経済学者が表現した『スローパンクチャー(徐々に空気が抜ける状態)』との見解が正しかった」と評す。
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