パリ協定から10年、世界が阻止する「極端に暑い日」は年57日

記事のポイント


  1. 2015年のパリ協定の採択から10年が経つが、1.5℃目標の達成には程遠い
  2. 採択前は今世紀末に4℃の温暖化を見通しだったが、今は2.6℃となる
  3. 研究機関は、それでもパリ協定が「極端に暑い日」を年57日回避すると分析した

パリ協定の採択から今年で10年だ。パリ協定は、地球温暖化を「2℃より十分低く1.5℃に抑える努力」を追求する国際協定だ。パリ協定の下で各国が公約した温室効果ガス(GHG)排出削減計画をすべて実施しても、2100年には産業革命前から2.6℃の気温が上昇する。「1.5℃目標」には程遠いが、それでも科学者らは、パリ協定によって「極端に暑い日」の増加を年57日分、回避すると分析した。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

パリ協定の採択から10年が経った
(c) United Nations Framework Convention on Climate Change

英研究機関のワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)と米気候研究機関のクライメート・セントラルは10月14日、「パリ協定10年:極端な暑さの現状と未来」と題する新たな研究を公開した。

WWAは2015年に設立されたイニシアチブで、極端な気象現象が発生した直後に、人為的要因による気候変動がその現象にどの程度影響を与えているかを解明する。クライメート・セントラルは、世界のあらゆる地域の毎日の気温に、気候変動が及ぼした影響を測定し公開する。

パリ協定が採択される前、国連が公開した「排出ギャップ報告書2015」では、今世紀末に地球の平均気温は産業革命前から4℃上昇すると見通した。2024年に公開した「排出ギャップ報告書2024」では、パリ協定の下で各国が約束した排出削減計画や政策をすべて実行すれば、気温上昇は2.6℃と見込む。

各国が現在の排出削減計画や掲げた政策をすべて実施してもパリ協定の「2℃より十分低く1.5℃に抑える努力」目標には遠く及ばない。しかし両研究機関は、4℃の温暖化で世界は「極端に暑い日」が114日増加する見込みだったのが、パリ協定によって、そのうちの57日間は回避することになる、とまとめた。

なお、「極端に暑い日」とは、世界各地が観測した過去30年間(1991年~2020年)の気温の上位90%を上回る高温の日を指す。上位90%を上回る高温の日は、各地域の住民が過去からの経験上、「暑い」と認識する気温だ。

■「0.1℃」の差は何千人もの生死を分ける

暑熱はすでに世界で、年間推定50万人の死亡に関与しており、最も致死率の高い異常気象だ。この脅威が将来、どのくらいの頻度と強度になるかは、今後数十年の地球規模での温室効果ガスの排出量にかかっている。

発表に先立ち、両研究機関はメディア向け説明会を実施し、地球の気温において、「0.1℃」といったわずかな気温の差が、どれほど重大な意味を持つかを強調した。

「外に出た時に、15.3℃と16.6℃とでは、微々たる違いに感じられるかもしれない。しかし、地球温暖化における1.3℃と2.6℃の差は(同じ1.3℃の違いでも)、何千人もの人々の生死を分ける。もちろん生態系も同様だ」とインペリアル・カレッジ・ロンドンの気候学者フリーデリケ・オットー氏は力を込めた。

1.3℃の温暖化というのは、今の私たちの現在地だ。2024年は地球の平均気温が暦年で初めて1.5℃を上回ったが、過去5年平均では1.3℃の気温上昇だ。

なお、2015年にパリ協定を採択した時点では、すでに産業革命前に比べて1℃の気温上昇を確認していた。そこからわずか10年で、0.3℃も気温の上昇が進んだ。

オットー氏は、現時点で1.5℃目標に程遠い状況にあることを踏まえ、「これまで以上に化石燃料からの脱却を加速し、可能な限り野心的な排出削減を追求しない限り、地球上に住む大多数の人々の人権が重大に侵害されるだろう」と語気を強めた。

そして、「より強力な計画と約束がなければ、将来世代は依然として、危険な暑さ、深刻な健康被害、そして不平等の拡大に直面する」と警鐘を鳴らした。

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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キーワード: #気候変動#脱炭素

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