ドジャースタジアム前でなぜハローキティが汚されたのか

記事のポイント


  1. 米環境活動家は今月、ドジャースタジアム前でハローキティを模した人形で抗議活動を行った
  2. 米ドジャースが化石燃料企業とのスポンサー契約を続けていることへの抗議の意だ
  3. ドジャースに限らず、スポーツ界の化石燃料スポンサーへの抗議は世界で広がる

今月初め、米ドジャースの本拠地ドジャースタジアム前で、米国の環境活動家がハローキティを模した人形を使って抗議活動を行った。ドジャースが化石燃料企業とのスポンサー契約を継続していることへの抗議だ。スポーツ界での化石燃料スポンサーへの抗議は、ドジャースに限らず世界で広がっている。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

スポーツ界での化石燃料企業とのスポンサー契約については
世界で抗議活動が広がっている
(c) Zan Dubin Scott

ドジャースタジアム(カリフォルニア州ロサンゼルス市)前で環境活動家が実施した抗議活動は次のような内容だ。インスタグラムでもその動画を共有している。

ハローキティを模した人形が、ドジャースと化石燃料企業とのスポンサーシップに抗議をするプラカードを持っていると、そこにスーツ姿の男が現れる。男は「テキサスからスイート原油を持ってきた」と言って、黒い油をキティ人形の頭にかけて汚す。

この男は、テキサス州に本社のある石油精製・販売企業フィリップス66を表現している。同社は長年、ドジャースとスポンサー契約を結んできた。ドジャースタジアムのスコアボード最上段の真ん中で、オレンジ色の円に青文字で「76」と書かれたマークは、フィリップス66のグループ会社のガソリンスタンドのロゴだ。

またフィリップス66は、カリフォルニア州が気候変動の被害を提訴している係争中の企業でもある。

(参考)米ドジャースに化石燃料企業のスポンサー、市民から批判も
(参考)「スポーツウォッシング」がMLBなどプロスポーツのリスクに

■なぜ「スポーツウォッシング」なのか

ドジャースタジアムでの抗議活動を率いるザン・デュビン氏は、「スポーツ界には化石燃料企業の広告が蔓延している。これは世界的な問題だ」と指摘する。彼女は以前、ディズニーに対する署名活動を行い、ディズニーパーク内のゴーカート「オートピア」を電動化するとディズニーからの約束を取り付けた実績を持つ。

「スポーツチームが、スポンサー契約を結んだ企業を宣伝すると、チームのファンは、その企業を自分の応援するチームと結び付ける」とデュビン氏は説明する。

「ドジャースの経営陣は、現オーナーであるマーク・ウォルター氏の下、長年にわたってフィリップス66とスポンサー契約を結んできた。この巨大化石燃料企業は、ガソリンスタンドチェーンの『76』を所有し、そのオレンジと青のロゴは、球場にそびえ立つスコアボードからオンデッキサークルに至るまでドジャースタジアム全体に貼られている」(同)

「これら『76』の広告は、ドジャースのこの石油企業に対する暗黙の支持だ。それが、ファンのドジャースに対する好意を、『76』やフィリップス66と結びつける要因となる。フィリップス66は、気候危機の原因である温室効果ガスを排出する燃料を生産する企業だ。気候変動が加速する今、これは不誠実で道徳に反する」とデュビン氏は断じた。

彼女は、ロサンゼルス郡公衆衛生局の最新報告書を引用し、「ドジャースのファン層の4割超を占めるラテン系市民らは、高速道路の近くに居住していることが一因で、他の人種・民族グループよりも著しく高い喘息の罹患率となっている」と説明した。

■ハローキティを起用した理由は

一方、ハローキティを模した人形を起用したことについて、デュビン氏は、「サンリオとは一切連絡を取っていない」と話す。

彼女自身は長年、ハローキティが大好きだという。加えて、「ドジャースタジアムでの『ハローキティ―ナイト』は大好評で、ドジャースファンならハローキティを知っている」ことから、抗議活動にハローキティを起用したと語った。

オルタナはサンリオ広報にもコメントを求めたが、現時点で回答はない。

■世界で化石燃料広告の制限・禁止が進む

見せかけの環境主張は「グリーンウォッシュ」として世界で規制が進む。健全でクリーンなイメージのスポーツ界で、スポンサーシップを利用した化石燃料企業のイメージ向上策は、「スポーツウォッシング」との非難を浴びる。

2024年6月には、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が、気候変動が加速する中で化石燃料企業の広告を禁止するよう呼びかけた。

2025年6月には、広告・PR業界に特化した国際環境NGOクリーン・クリエイティブズが、新たな報告書をまとめた。そこには、「化石燃料マーケティングの終焉は避けられない」との現状も記した。

報告書によると、オランダのハーグ、スコットランドのエジンバラ、オーストラリアのシドニーなど、世界の約50の管轄区域ではすでに化石燃料広告の制限・禁止を実施している。英シェフィールドやカナダのモントリオールなども同様の規制を検討中だ。

さらに、16カ国と130の管轄区域が参画する形で「化石燃料不拡散条約」の策定も進んでいる。なお、いずれの動きにも、日本からの参画は見られない。

■欧州スポーツ界では化石燃料スポンサーを外す動きも
■化石燃料スポンサーは日本の野球界にも

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

執筆記事一覧
キーワード: #脱炭素

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。