ビル屋上での野菜栽培、ニューヨークで「適応型農業」広がる

記事のポイント


  1. ビルの屋上などで野菜を栽培する「適応型」の農業がニューヨークで広がる
  2. これまでの農法と比べて水や土地の使用量を9割減らした
  3. 仕掛け人のアグリテックは都市内で完結するフードシステムの確立を目指す

米ニューヨークでは、都市内で完結するフードシステムの確立を目指すアグリテックが注目されている。同社は、ビルの屋上や都市部の空きスペースを活用して、屋内で野菜を育てる。これまでの農法と比べて水や土地の使用量を9割減らした。 (米ニューヨーク=古市裕子)

ゴッサム・グリーンズの経営陣。ニューヨーク市
場では「新鮮」「ローカルズ」は強いブランド力を持つ

ニューヨークでは、屋内で農作物を育てる「都市型農業」への期待が高まる。背景には、気候変動による干ばつや洪水だけでなく、長距離輸送コストの高騰やサプライチェーンの不安定化などの問題がある。

こうした課題が山積する中、ニューヨークでは、都市内でいかに持続可能な形で食料を作り続けられるが論点になっている。この課題の解決を目指すアグリテックが2009年に創業した、ゴッサム・グリーンズだ。

ブルックリンに本社を置く同社は、ビルの屋上や都市部の空きスペースを活用して、レタスやハーブをハイドロポニック(養液栽培)方式で育てる。屋内で制御した環境下で栽培するため、従来の農法と比べて水の使用量を90%削減し、土地の使用も97%削減できるという。

気候変動への対応が待ったなしの状況において、環境負荷を最小化したフードシステムの構築を目指す。同社の最大の価値は、「都市に生産地を取り戻す」点にある。都市近郊での栽培によって、長距離輸送が不要になり、フードマイルと輸送時の温室効果ガス排出量を大幅に減らした。

農薬の使用量も最小限で済まし、気候変動による天候不順の影響を受けにくい。そのため、安定した野菜供給が可能になるというのだ。

「近距離消費」を掲げる

ニューヨークのような人口密集地では、農地確保が難しい。一方で、野菜需要は高まり続ける。屋上や倉庫、駐車場の跡地などを活用する同社のビジネスモデルは、都市環境の中に、食料供給に関する新しいインフラをつくるソーシャルビジネスとして期待されている。

同社はホールフーズ・マーケットなど大手小売にも商品を供給するが、ブランド戦略として、「ローカル生産・近距離消費」を掲げる。都市で暮らす消費者に、サステナブルなライフスタイルを提示したことで、ニューヨークで高い支持を得た。

教育プログラムや見学ツアーも実施しており、都市住民が「食と環境」を学ぶ場としても機能している。気候変動で栽培条件が厳しくなる中でも、同社は、「より少ない資源で、より多くの量を育てる」ことに挑戦中だ。

最新のグリーンハウスでは、高度な自動化、冷却・除湿システム、データサイエンスを駆使し、完全に御した環境下で野菜を育てる。気温が暑く、湿気の高い地域でも安定生産を可能にしている。

furuichiyuko

古市 裕子

ニューヨーク在住。NY Marketing Business Action, Inc代表 (2015年起業)。1995年渡米。NY市立大学大学院国際政治学・国際関係論修士号卒業。ジェトロNY17年勤務の後、独立。日系企業の海外ビジネス進出支援。国連SDGs理念や欧米企業の動向にフォーカス。国連フォーラムNY幹事。NY邦人メディア紙SDGs連載コラムニスト。東京都特定非営利活動法人・在外ジャーナリスト協会(Global Press)所属。拙著【SDGsピボット戦略12事例集/欧米企業が進める連携型・サステナビリティ×次世代×企業価値】など。

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キーワード: #生物多様性#農業

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