「21世紀は木の世紀」――新国立競技場の設計が決まった隈 研吾氏インタビュー

たぶん、最終的にはそうなると思う。1995年くらいから、「木造ルネッサンス」の時代だと感じている。

――建築において、環境やサステナブルへの意識はどうでしょうか。

正しい建築とは何かと考えるときの基準で、最も重視するものが、「サステナブル」である。木は、中に二酸化炭素を取り入れることができる。燃やしてしまったら、また二酸化炭素が出てしまう。大事に長く使うことが一番、地球温暖化の防止につながる。

――隈さんはこれまで、木を組んだ建築物を設計されてきましたが、木造とコンクリートでは、耐久性の違いはあるのでしょうか。

素材だけの性能でいうと、木のほうが優れている。コンクリートは、弱ってきたときに見た目では分からない。木は、傷んできたときに、「あ、腐ってきたな」ということが分かる。

子どもの頃、つみきに夢中になったことがきっかけで建築家を目指すようになった 写真:廣瀬真也(SPREAD)
子どもの頃、つみきに夢中になったことがきっかけで建築家を目指すようになった 写真:廣瀬真也(SPREAD)

分かるということが、実は耐久性だと思っている。法隆寺が世界のどんな建築よりも長持ちしているのは、傷んでいる木を取り替えてきたから。

古くなったものを取り替えることは、人間社会においても健全だと思う。コンクリートだと、弱っているか分からなくて、突然壊れて、みんな怪我してしまう。システムとして不完全だ。

――国産材を使えば、地球温暖化の防止につながるのですが、流通の課題は山積みです。外国材に比べて価格が高く、国産材を取り扱う製材所も多くありません。それに、国産材を選びたくても、消費者が見た目で国産材かどうか判別することも難しい。

社会全体で、「国産材を使う」というコンセンサスが取れれば、価格や流通も変わっていくでしょう。国産材に舵を切る役目として、ぼくら建築家や材選びに携われる人が意識を持たないといけない。

民間業者の技術開発によって木の最大の欠点をカバーでき、政府としても国産材の使用を促すようになってきた。建築家もその流れに追いついていかないといけない。建築のデザインが追いつければ、脱コンクリートへと時代を動かせる。木のデザインは、もともとは日本人が一番先端だったのだから、ぼくらは頑張らないといけない。

■「建築の民主化」が起きる

――隈さんが建築家を目指すきっかけは、子どもの頃に夢中になったつみきにあるとのことですが、つみきのどのようなところが好きになったのでしょうか。

つみきはぼくの人生にとって、非常に重要なもので、子どもの頃はつみき少年だった。子どもの頃、畳の部屋に寝転びながら、一人でずっとつみきで遊んでいた。母からは、「つみきを与えれば、手が掛からない子」と言われていたよ。

――森林の保全活動を行うmore Trees(モア・トゥリーズ)と協力し、隈さんがデザインしたつみきの開発費をクラウドファンディング「Makuake(マクアケ)」で集めました。このつみきは、どのように楽しんでほしいと思っていますか。

子どもの頃から、自分のつみきをいつかは作りたいと思っていた。だから、今回のモア・トゥリーズからの提案は願ってもないものだった。モア・トゥリーズの森林保全活動は、もともと知っていた。今回は、つみきをデザインしてほしいという提案を受けて、即座にやろうと思った。

ぼくがデザインしたこのつみきは、宮崎県諸塚村のスギを使っていて、軽いが、積み上げていけば、家も家具も公園も作れる。クラシックなつみきは礎石像タイプで、積み上げていくと、重くなっていく。

これは、その形から抜け出していて、積むという行為をするうえでは、同じなのだけど、礎石像が持っている「中が詰まっている感じ」をなくした。隙間があるので、風や光が抜ける構造になっている。高くしても重量が掛からない。大きくなって崩れても怪我する心配はない。軽やかさと格調性があり、現代に適していると思う。

現代のモノづくりは、ITでもファッションでも「消費者も参加する」という動きが起きている。建築は、その意味では遅れていて、建築家ではないとかかわれないと思われている。消費者は建築家やデザイナーの「崩れないアイデンティティー」を楽しんできた。でも、今は作るたびにガラっと変わるような、「アイデンティティーの揺らぎ」を楽しむ時代ではないかと思っている。

このつみきで多くの人が、自分の空間をそれぞれ作れば、建築に興味を持ち出し、「建築の民主化」が起きてくるのではないかと思っている。設計に多くの人が参加して、揺らぎを楽しめるようになれば面白い。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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