更家悠介サラヤ社長「社会と向き合い事業を伸ばす」

サラヤは、事業を通じて「衛生・環境・健康」に焦点を定めたサステナビリティ経営をグローバル展開している。「社会課題を製品・サービスで解決する」という企業姿勢は創業時にさかのぼる。2代目の更家悠介社長は、その創業精神を進化・発展させ、「社会と向き合う姿勢」を打ち出した。きっかけは、ある報道番組による告発だった。(聞き手:オルタナ編集長・森摂/協力:サステナブル・ブランド ジャパン)

サラヤの更家悠介社長は「ビジネスではきれいごとが大事」と強調する

――サラヤは比較的早くから社会的な取り組みをされてきましたが、最初のきっかけは何でしたか。

創業した1952年には赤痢患者が多く、その予防のために日本初の薬用石けん液を作ったのが始まりです。60年代には光化学スモッグによる大気汚染が喉を傷めるので、うがい薬を作りました。当社のDNAは、社会問題を製品で解決することなのです。

「ヤシノミ洗剤」の誕生は1971年。当時、主流であった石油系洗剤などの生活排水が、河川や湖沼の水質汚染や泡立ち、酸欠による魚の大量死などの問題を起こしていました。さらに性能を高めるためにリンを入れていたので、富栄養化も問題になりました。

そこで当社は非石油系で無リン。そしてヤシの実から作った植物系の洗剤を小売りで始めました。社会課題のすぐ近くに本業があったのと、課題を解決するために事業を作っていったのと、両方あると思います。

――そのヤシノミ洗剤がボルネオの環境を壊しているという誤解が広まったのですね。

はい。すぐに調査員を雇って、現地調査を行いました。その結果、洗剤原料のひとつであるパームオイルの生産で、森林破壊や動植物の生態系への悪影響が広範囲に起きていることが分かりました。

同時にパームオイルは世界で最も利用されている植物油であり、その約85%が食用。そして残り15%が工業用ということも分かりました。そして工業用のうち石けんや洗剤に使われるのは数%。さらに大きな企業ではない当社が使っている量はごくわずかということです。しかし使っている企業であることには間違いない。

そこで、マレーシア・サバ州の野生生物局とともに野生の動植物の保全プロジェクトを始めることにしました。ただ1社がお金を出しても、持続可能ではないだろうということで、日本でNPOをつくり、パームオイル利用企業や消費者に基金を募ることにしました。今では年間で6千万円程度の寄付金が動いていると思います。

■「きれいごと」の実践を

――一般の企業経営者の間では「サステナビリティやCSRは収益に結びつくのか」という葛藤があるようです。

やはり収益あっての企業なので、そこからは逃れられません。しかし、水を汚さない、環境を劣化させない、資源を大事に使うなどは、企業にとって真剣に考えるべきことです。サステナビリティをしっかり問題意識としてとらえ、収益と同時にとらえる。もし収益が上がっていくのであれば、社会的活動の優先順位を上げて取り組むべきでしょう。

「きれいごと」と言われるかもしれません。僕もきれいごとは嫌だったのですが、13年ほど活動していますので、そろそろ「悪企みではないだろう」と思っていただけるのではないかと考えています。

――SDGs(持続可能な開発目標)が国連で採択されましたが、日本はサステナブルな社会に向けて変わっていけますか。

今は悲観的です。日本は、外圧や大きなショックがないとなかなか動きません。論理で動く国民ではないです。感情で動くところが多いです。そういう意味では、ドイツをはじめ欧州の方が着実な印象です。

◆サラヤ

※オルタナ55号(2018年12月17日)から転載

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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