想田和弘監督の最新作となるドキュメンタリー映画『牡蠣工場(かきこうば)』が、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで上映中だ。人手不足から中国人実習生を受け入れる瀬戸内の牡蠣工場を取材。グローバル化の波が、ついに日本の過疎地に直接届き始めた様子が記録されている。(オルタナ編集委員=斉藤円華)
■予断を排した「観察映画」
作品は想田監督による「観察映画」の第6作目だ。最近は「リベラルの論客」として積極的に発言を行う監督。しかし事前取材やナレーションなどを一切排し、目の前の風景を虚心坦懐に、あるがままに記録する観察映画の手法は今回も全くブレない。
牡蠣工場がある岡山・牛窓は、近代の発展からやや取り残された過疎地域。カキ剥きをはじめ、辛く給料も安いカキ漁業を担う若手は少ない。そこで工場主は2人の中国人実習生を受け入れることを決めた。
「実習」とは名ばかりで、実態は外国人による低賃金労働とする批判も多い実習生制度。ここでも中国人を搾取するのかと思いきや、工場は新たに住居を用意し、従業員が中国語の勉強も始めるなど、可能な限り手厚く迎えようとする。
また、マナーの悪さといったイメージが先行する中国人も、実際に来てみれば人なつこい。私たちが持つ予断を少し裏切るような場面が展開していく。
グローバル化で人とモノが行き来する垣根は下がった。過疎の牛窓では、人手不足をしのぐべく中国人を受け入れた。人口が減り始めた日本で、こうした光景はやがてどこでも当たり前になるのだろうか。
それにしても、漁業や農業などで働く若手が少ない。監督は「給料が上がれば若者は増える。しかしそれをすればカキの値段も上がる」と話す。
近代化の下、農漁業やものづくりなど生活に不可欠な産業は衰退。グローバリズムはそこに拍車をかけているようだ。牛窓の人々は今はまだ、その変化を優しく受け止めようとしているように見える。しかし「いいもの安く」の価値観ばかりが優先されれば、いずれ地方の風景そのものが消えていくだろう。その場面に立ち会ったのが本作品だ。全国順次公開予定。