地方創生映画『クハナ!』が問う「価値」の意味

例えば最初から地域にお金があって、一流プロデューサーや制作会社がついてヒット映画を創ったとしても、それだけが成功と言えるでしょうか。自分たちで主体的に、苦労しながらも楽しんでゼロから創り上げたからこその価値があるということです。この取り組みが地域の他の団体からも注目されており、最初から予算ありき、開催が決まっていてやるよりも、本当に何かを自発的にやりたい人が考えて動いて参画していく方が良いのではないかと、地域イベントの在り方が見直されるきっかけになるかもしれません。

「クハナ!」映画部長の林恵美子さん
「クハナ!」映画部長の林恵美子さん

印象的なエピソードとして、この映画にはスポンサーの場所や商品などが随所に登場しますが、これはスポンサーとの契約や要求といったいわゆるプロダクト・プレイスメントではなく、監督が自ら映画に組み入れたものがほとんどとのこと。一番苦しい時に、志を買ってポンと大金を出してスポンサーになってくれた企業ほど見返りを求めず、ただじっと支えてくれた、そんなスポンサーへの「恩返し」なのです。この善意と善意のつながりもまた、この映画の隠れた見どころです。

ややもすると現在の資本主義経済は、短期にしろ長期にしろ、感動さえも、「いつかお金につながらなければ価値がない」という理論さえ成立してしまう世界です。そうしたなかで、資本主義経済さえも、この桑名の映画と同じく、人間のそれぞれの暮らしと、幸せのためにあるひとつのツールなのではないかということを、思い出させてくれました。どのような町にも、企業にも、そこに生きる・働く人々の、情熱やこだわり、感動、そして日々の生活があり、それ自体もまた貴重な価値であることを忘れないようにしたいものです。

クハナ! 9/3から東海地区先行上映中 10/6から全国ロードショー http://kuhana.jp/

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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