愛鳥週間のいまむかし

■私たちに身近な生物多様性(26)[坂本 優]

愛鳥週間の頃、東日本に姿を現すツバメ。住宅の構造が変わり巣作りに適した場所は減っている(山梨)

5月10日から始まる1週間は、1950(昭和25)年以来、愛鳥週間と定められている。鳥類保護連盟が始めたものだが、記念切手も発行され、官民協力しての取組みとなっている。

「愛鳥週間用ポスター」は、コンクール形式で全国の小中高校生などから原画が募集されている。こちらもすでに半世紀を経過した。いずれにせよ、歴史のある取組みだ。

小学生の頃、野鳥を大切にする理由は、農作物の害虫を退治するためと教えられた。なぜ5月が愛鳥週間なのか。それは野鳥の子育てと巣立ちの時期だから、ということだった。

だから当時の私に一番身近な対象は、軒先で子育てをする「益鳥」のツバメだった。同じく身近な野鳥ながら、スズメは秋に大事なお米をついばんでしまう悪い鳥だから対象外だった。大人は空気銃で撃ち、子どももレンガなどを使った罠で捕まえていた。

その頃も、スズメは決して害鳥ではない、という意見はあった。ただ、「野鳥」という感覚がない位ありふれた鳥で、食材にもされていた実態があり、この時期だけ保護の対象にするのは、なかなか切り替えが難しかった。

当時、人里の小さな野鳥に大きな脅威を与えていた集団の一つは、私自身も含め子ども達だ。目にした巣が、手の届く場所あるいは登って行けるところならば、見逃すことなく雛を捕まえた。家に持ち帰り、ご飯粒やゆで卵の黄身などを与えて「気持ち」のうえでは育てようとするものの、結果としてそれは単に命を奪うだけの残酷な行為だった。

ポスターの原画コンクールが始まる前にも、「愛鳥週間」のポスター作成が連休の宿題に出されたことがある。ポスター作製を通じて、子ども達の「気持ち」や習慣を改めようという意図もあったのだろう。

ポスターと言っても、画用紙に絵を描いて愛鳥週間とかバードウィークと書き添える程度のものだ。私は、当時から保護の対象だったタンチョウや、トキなどを題材にした覚えがある。描いて見栄えがすることもあるが、「愛鳥」自体が生活実感から遠い感覚だったことが題材選びに影響したのかも知れない。

現在、愛鳥週間期間中に、行事の一環で環境省による「野生生物保護功労者表彰」などが実施されている。ここでいう野生生物は野鳥に限定されない。また、表彰の対象も里山整備や林業による山林の再生などに及んでいる。

5月22日は「国際生物多様性の日」だが、愛鳥週間の取組みは、生物多様性保全の取組みの一環として行われてきている。

野鳥保護は、生物多様性保全という取組みの一側面だ。そして生物多様性保全は、持続可能な社会を次世代につなげていくという、国際的な目標、SDGsを推進していく取組みの一側面でもある。

かつての私は、初夏の5月に、雪の釧路湿原のタンチョウを題材に愛鳥週間のポスターを描いていた。今なら、5月に飛来する夏鳥や、数を減らしているスズメを取り上げていただろうか。「益鳥」、「害鳥」という一律的な区別もなくなって久しい。

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坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生。東京大学卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (数え歳70代チーム)にて現役続行中)

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