統合報告が目指すべき、真の統合(前編)

何回かにわたって、近年の統合報告の趨勢について、広まるサステナビリティ(社会や環境の持続性)と財務価値の調和への期待と共に、「価値」の観点が投資家および財務中心になりすぎているのではないかという懸念についてお伝えしてきました。最後に、財務価値はあくまで価値の一側面であり、最終ゴールではない点を再確認して、このシリーズを終えたいと思います。(中畑 陽一)

■持続可能性は統合報告の本質

そもそも統合報告書(財務情報と非財務情報を統合し、短中長期的な価値創造を簡潔に報告する新しい企業報告の形態)の成り立ちを考えると、環境や人権問題への対応といった持続可能(サステナブル)な社会のための企業報告という目的意識がありました。その証拠に、統合報告を推進する最大組織IIRC(国際統合報告評議会)を立ち上げたのは、ほかでもないサステナビリティを企業報告に反映させるあり方を開発・推進する国際NGO組織であるA4SやGRIらでした。

社会・地球の持続可能性のために経済活動・資本主義を見直さなくてはならないという危機感が主軸にあり、その延長線上に投資家や株主のためにサステナビリティを企業報告に組み込む必要性が当初より共有されていました。

また、2013年に発表された統合報告「Background Paper」の「VALUE CREATION」に価値創造についての見解が明記されています。そこには「財務価値は関係するが、それは価値創造を評価するのに十分ではない」とあり、多様な「価値」の在り方について、過去の学説などを元に解説されています。

また「国際統合報告フレームワーク」にも「組織に対して創造される価値(主に財務的価値)」と「他者に対して創造される価値」の2つが明記され、それらが相互に結び付いていることが示されています。仮に財務資本提供者のみへの価値創造を統合報告書発行の目的とするにしても、それ以前に組織はそれにとどまらない様々な価値を創造しているという前提を共有しておく必要があります。

すなわち、その他のステークホルダーの価値創造は、財務価値の創造にまったく劣らないということです。それどころか、むしろ財務価値はより本質的な、一人一人の人間や社会にとっての多様な価値を基盤にしています。従って、非財務情報(価値)を財務情報(価値)に統合するのではなく、様々な価値を包摂して考えることが真の統合だと思います。

■財務価値は社会価値に包摂されている

経済活動は社会をうまく成り立たせるためのもので、そのために人や環境、地域などの資源を使いながら価値を創造しています。それにも拘わらず、持続可能な社会は資本主義経済活動そのものによって危機に瀕しています。環境問題、貧富の格差、人権侵害など、どれもグローバル経済活動のゆがみが引き起こしたものばかりです。

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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