統合報告が目指すべき、真の統合(前編)

例えば、声が小さく、踏みにじられている人々の人権侵害は、NGOが強くキャンペーンをしているから関係企業の評判悪化につながり、企業価値を棄損します。それでは、NGOがキャンペーンをしなければ、ほうっておけばいいのでしょうか。

それとも「バレるとヤバい、あるいはいつかバレたり規制されるかもしれないから取り組むべき」なのでしょうか。そもそも人権を侵害することがフェアでない、同じ人間としておかしい、経済が人の幸福より優先されるのはおかしいと思うから取り組むという観点も必要ではないでしょうか。

気候変動についても、確かに炭素税や排出権取引が実施されお金としての影響がわかりやすくなれば、より重要度も高まるという論理はわかります。しかし、それでは実際に影響を与えているにもかかわらず、それが定量化、キャッシュ化しにくい、法制化が検討されていない問題は「重要ではない」ということで後回しにすれば良いのでしょうか。

無論、企業経営が成り立つためには赤字ではいけません。しかし、利潤と株主価値を最大化することだけが、企業の評価でもありませんし、むしろ持続可能な社会のためにはその価値基準こそ変えていく必要がないでしょうか(サステナビリティの考え方は、もともとそういうもののはずです)。

サステナビリティを自社の戦略に落とし込む際に、この部分をしっかりと考え、感じ、共有しておかなければ、結局またどこかで、まわりまわって資本市場の欲望の下敷きになり泣くしかない人々や、自然の破壊が存在し続け、それはいつか自分自身に、あるいは自分の子孫たちに跳ね返ることになるのではないかと心配になります。

統合報告やESG投資の隆盛は、非常にポジティブで希望に満ちたムーブメントです。しかし、統合報告を必要としているのは、投資家だけではありません。表面的にSDGs(持続可能な開発目標)に触れることやGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のESGインデックスに採用されることが目的でもありません。

統合報告の盛り上がりがブームで終わるのか、特定の国やプレイヤーだけではなく、地球の未来や社会にとって必要なインフラに変わっていくのか、私たちは今、その岐路に立っている気がします。

nakahata_yoichi

中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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