サッカー・ワールドカップとバックキャスティング

いきなりの高い目標に、トヨタ自動車の社内だけでなく、部品メーカーからも悲鳴が上がりました。「そんなことができるわけない」「ウチは対応できない」。しかし、その後、英仏両国が2040年にガソリン車の販売を禁止すると発表し、この目標はにわかに現実味を帯びてきたのです。

そもそも、日本人は「できることからコツコツと」が好きな民族です。「不言実行型」です。一方、バックキャスティングは欧州流で、遠くて高い目標を掲げる「有言実行」が好みです。日本人はそれを「できるかどうか分からないのに、アドバルーンを上げるのは無責任だ」と考えたりします。

どちらが良いのかは一概には言えませんが、目の前の壁が高ければ高いほど、バックキャスティングの方が有効なようです。現実の世界でも、梯子よりも、縄梯子の方が長いものが作れます。

サッカーの話に戻ると、かつて日本サッカー協会は「2050年にワールドカップ優勝」というバックキャスティング的な目標を掲げていました。しかし、いつしかそれも聞かなくなり、ロードマップも外部には見えてきません。

次回(2022年)のカタール大会では「ベスト8」、その次の2026年大会(カナダ・米国・メキシコの共同開催)ではベスト4、など少しずつ前進するフォアキャスティングの思考では、目の前の壁はいつまでたっても越えられないでしょう。

日本のサッカー協会は、改めて「2050年ワールドカップ優勝」を掲げ、それを実現するロードマップを明確にするべきです。ちなみに、大のサッカー好きで知られる習近平・中国国家主席は最近、「2050年までに中国代表をワールドカップで優勝させる」との目標を公表し、2025年までに実に5万カ所のサッカーアカデミーを開校させる計画を作らせました。

ひるがえって、日本の産業界は、目の前の壁をどう超えようとしているのでしょうか。際限ない人口減少、市場の縮小、グローバル競争の激化、さらには温室効果ガスや廃棄物などのサステナブル目標。「できることからコツコツと」では、なかなか通用しないのです。

イノベーションを起こし、高い壁を超え、さらなる発展を目指す――。日本のサッカーもビジネスも、大きな転換点を迎えているのです。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..