ソーシャルイノベーションを「発展的評価」で促す

■ソーシャルイノベーションを生み出す「発展的評価」(DE)とは

そもそもソーシャルイノベーションと「評価」はいかに結びつくのだろうか。これに応えるために、全米評価学会会長など評価関連の要職を歴任するマイケル・クイン・パットン氏が初めてDEというアプローチを提唱した。

2011年刊行の著書で詳細が語られ、現在は米国やカナダ、オーストラリアやニュージーランドなどを中心に広まっており、NPOセクターのみならず社会的企業や行政でも用いられて大きな成果を上げている。日本では、2017年よりCSOネットワークが研修事業を開始し、人材育成や教材開発を行っている。

DEは「ソーシャルイノベーションなど、目的が固定されているというよりも目的自体が変化し、時間軸も予め設定されているというよりも流動的で前進的な対象を評価するための評価手法である。そこから得ようとするのは、外部への説明責任というよりも、イノベーションや変化から学習することである」と定義されている。

今回は企業に役立つDEの3つのポイントを解説したい。

1)役に立つ評価(実用重視評価)
従来の「評価」は、例えばODA(政府開発援助)分野において、外部者により一方的に行われることが多かった。その結果、事業者が知りたいことが報告書に載っておらず、せっかく予算をかけておこなっても、評価結果は活用されないという悲劇が起きていた。

このような背景からパットン氏は「実用重視評価(Utilization-Focused Evaluation)」という考え方を提唱しており、それを受け継いだのがDEである。 DEは、「うまくいくのであれば、なんだってよい(Any way that works)」が基本姿勢であり、定型的な手法は定められておらず、事業者の役に立つことに主眼をおいた柔軟な評価のアプローチと言える。

2)複雑な現実世界での評価
現代の事業を取り巻く環境は、ますます変化が激しく、複雑になっている。そして環境は常に変化していくため、当初の計画通りにものごとが進まないのが常である。このような複雑な現実世界をそのまま受け入れて柔軟に対応するために、DEでは「複雑系理論」や「システム思考」の活用を推奨している。

これらの思考は、物事の根本原因を突き止めようとすることは不毛であり、複雑な現実世界をそのままシステムとして受け入れるというアプローチを採用した。これは企業経営や社会貢献活動の運用の面からも有用である。

3)ソーシャルイノベーションを誘発する評価
ソーシャルイノベーションは、「社会問題に対する革新的な解決法。既存の解決法より効果的・効率的かつ持続可能であり、創出される価値が社会全体にもたらされるもの」(クリス・デイグルマイヤー氏 スタンフォード大学ビジネススクール ソーシャルイノベーションセンター[当時])と定義される。

もちろんソーシャルイノベーションをどう起こすかという正解は存在しない。しかし、「高齢化の進んだ地域を元気にしたい」、「子どもの貧困問題を解決したい」など、どう在りたいかという意思はあるだろう。そこで事業者は、その意思に従いやってみては振り返り、場合によってはこれまでとは違った行動を取るというような、状況に適応して変化していく姿勢が必要になる。

事業を前進させるためには、事業についての客観的なデータを取得したり、その意味合いを考えることも求められる。このようにソーシャルイノベーションを誘発するには、事業の担い手だけでなく客観的な伴走者(評価者)とともに二人三脚で走っていくことが効果的である。

状況に適応した変化から新しいものを生み出す試みは、経営学でいうところの「創発的戦略」に近い。企業においては、本業や社会貢献活動で新たな取り組みをおこなう際に上記のような伴走者(評価者)の機能があることで、企業内に新たな学習の枠組みが構築され、それが積み重なることでソーシャルイノベーションにつながっていくと考えられる。

詳細は次回以降に譲るが、企業が社会的課題の担い手として可能性を広げていくためには、DEから学べることは多い。

以下(1)、(2)に、弊財団がDEについてまとめた資料を紹介する。さらに詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。

参考サイト(1)
Slide Share「発展的評価 理解のためのはじめの一歩」

参考サイト(2)
Prezi「DEやってみよう!」

◆千葉直紀(ちば・なおき)
CSOネットワーク/インパクト・マネジメント・ラボ担当。中小企業診断士、認定ファンドレイザー。1983年仙台市生まれ。『発展的評価』を用いた評価者育成プログラムの運用や社会的インパクト・マネジメント等を通した社会的事業の改善、マネジメント支援に取り組む。組織診断やファンドレインジングの手法を用いたNPOや中小企業支援などにも携わっている。一般社団法人CAN net理事・事務局長。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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