映画評『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』

(C) 2018 – 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved

本作品は、略奪されたピカソなどの絵画を追跡したドキュメンタリーだ。1933年に政権を掌握したナチス・ドイツは、ゲルマン民族の優位性を示すために絵画の略奪を始め、持ち主のユダヤ系資産家を処刑した。略奪には画商や研究家など「普通の人」が多く協力していたという。クラウディオ・ポリ監督は「略奪に手を貸した人たちは全体主義に巻き取られてしまった。誰しもこうしたことをやりかねない」と「全体主義への危機感」を語った。(松島 香織)

ナチス・ドイツが欧州各地で略奪した美術品は約60万点にのぼり、そのうちの約10万点が行方不明と言われている。遺族たちは祖父母の遺産を取り戻す活動をしているが、返還訴訟には「いつ強制収容所に入れられたのか」などの証明が必要で、作品が見つかっても取り戻すことが難しいという。

個人や公立美術館から略奪された美術品は、ゲルマン民族を賛美する写実的で古典主義的な作品と、ピカソやゴッホ、シャガールなどの印象派やモダン・アートの作品に分けられた。

前者の作品は画家志望だったヒトラー自らが企画し、金髪で美しい肉体をもつ純粋なドイツ国民を強調して展示した。後者は「税金から支払われた」と国民感情を煽動するような言葉とともに醜く展示された。

映画は美術品がこうしたプロパガンダに利用されただけではなく、ヒトラーや国家元帥のゲーリングの私欲に走る姿も明らかにする。競ってフェルメールの作品を手に入れようとしたり、略奪した絵画を誕生日のプレゼントにしたり、私物として坑道に隠し持っていたりした。またふたりの好みではない絵画は不当に転売され、党の運営資金となった。

略奪に協力したのは、画商や研究家等「普通の人たち」だった。歴史家の調査では、彼らは戦後も責任を負わされることなく画商や研究を続けていたという。さらにあるディーラーからは「自分はクランアントのために仕事をしただけ」と自分の行為を正当化する発言があった。 

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:
  1. 折本 百合江
    2021/09/14 9:15

    私はイタリアにおいて微生物の仕事をしていますが、彼らの社会は大きく3種類に分けられる。1)5ー10%程度の善玉菌。2)5-10%程度の悪玉菌。3) 80-90%の日和見菌類。

    この日和見菌達は占有率が大きいため、善玉菌、悪玉菌両方に取ってとても大事です。そのと多勢に無勢では勝利を得ることは殆ど不可能だから。ただこの日和見菌達の特性は 上記の1)と2)グループの目標、また何をいっているのかを知ろうとせず、ただ、大きな声のグループに単純に従い協力する。世界における殆どの戦争はこの法則に従っている。

    仕方がないでしょう。微生物達は私たちの始祖先、母親の胎内では十月十日で単細胞(微生物)から始まる38億年の旅をして、この世に生まれて来るのだから。
    自然はあらゆる生物を精神も含めて完全なものとして創造していないのだから。又不完全だからこそ、総ての有機物、無機物の協力を必要とし、社会が必要になるのでしょう。

+もっと見る

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..