原子力大綱への見直し意見、9割に

内閣府原子力委員会は10月12日、現行の原子力政策大綱の5年ぶりとなる見直しの必要性の是非について行った意見募集の結果を発表した。それによると、全回答者数のうち実に9割が、原子力開発の推進を明記した現大綱の見直しを求めていることがわかった。政府が進める原子力政策に、国民から「待った」がかけられた形だ。

意見募集は今年7月27日から9月21日まで、インターネットやファクシミリ、郵送により行われ、1205人から合計で1520件の意見が寄せられた。

内訳を見ると、現大綱の見直しを求める人の数が1071人と、全体の89%にも達し、見直しは不要とする134人を大きく上回った。

意見を提出した人の現住地では、最大の電力消費地である東京都が突出して最も多く229人に上った。また、六ヶ所村の核燃料再処理工場など、各種原子力施設を抱える青森県は91人と3番目に多く、原子力発電所の立地自治体の在住者からの意見応募が目立つのも特徴だ。

原子力政策大綱は、政府の原子力についての基本政策を定める。2005年に策定された現大綱では、日本の総発電量の3~4割を担うべく、既存炉の活用や代替、新規立地の推進を明記した。また、核燃料サイクルについても着実に進めるとの方針だ。

しかし現実には、原子力政策をめぐってはこの5年間でさまざまな問題が噴出した。

2007年7月に東京電力柏崎刈羽原子力発電所が新潟県中越沖地震によって大きな被害を受け、長期の運転休止に追い込まれたのをはじめ、2010年春には中国電力島根原発1・2号機で511ヶ所もの点検漏れが発覚。加えて全国23ヶ所の原子炉でも、原子力安全・保安院により追加点検の必要性が指摘された。また核燃料サイクル事業でも、六ヶ所村の再処理施設でトラブルが頻発しており、本格操業の見通しが未だ立っていない。

寄せられた意見の内容はこうした事情を反映して、安全の確保(耐震、被曝等)についてのものが573件と最も多く、原子力発電そのものについてが415件、核燃料サイクル、および放射性廃棄物の処理についてがそれぞれ370件、347件に上った。

原子力に対する国民の信頼が大きく揺らいでいることが、意見募集により裏付けられた結果となっている。

一方、見直しの必要はないとする意見では「資源小国の日本に核燃料サイクルは不可欠」「地球温暖化防止のために必要」などの声が多数を占めた。

原子力委員会では7月以降、有識者や一般からの意見聴取を進めているが、今回の結果が示されたことで、原子力政策大綱の見直しをめぐる議論に影響を与えることは間違いないとみられる。(オルタナ編集部=斉藤円華) 2010年10月21日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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