愛しくも、やがて哀しきチワワの瞳(坂本 優)

■私たちに身近な生物多様性・番外4

私は、犬も猫も好きだ。あいにく今住んでいる集合住宅では飼えないが、郷里山梨の実家には犬も猫もいて、愛犬や愛猫との触れ合いは帰省時の楽しみの一つとして欠かせない。

「犬と猫とどちらが好きか」と問われたならば、実際に優劣つけがたく、「両方とも好き」というのが長らくの返事だった。

今、私はあえて「猫が好き」と言っている。空前の猫ブームだからということでなく、ご近所のペットのイヌたちを見ているうちに、そのように考えざるをえなくなったというのが正直なところだ。

最近の研究によれば、DNAなどの分析から、犬はオオカミの子孫と考えられている。姿こそ様々だが、シートン動物記やジャングルブック、グリム童話などに出てくるオオカミ(ハイイロオオカミ)と同じ種類の動物だ。

住宅事情のせいかご近所で見かける犬はチワワなどの小型犬が多い。もちろん、私にはどの犬たちもかわいい。つぶらな瞳には癒される。

しかし、彼らがハイイロオオカミの子孫なのだと思うと、オオカミとあまりに違うその姿、そしてその姿を、おそらく少なからぬ命の犠牲のもとに人間がつくりだした、という事実に慄然とする。

もとよりハイイロオオカミも、ホッキョクオオカミやシンリンオオカミ(ティンバーウルフ)などの集団と、アラビアオオカミやインドオオカミと呼ばれる集団とは、大きな体格差がある。

しかし、「それにしても」だ。1キロのチワワは、小型のアラビアオオカミと比べてさえ、体重は10分の1に満たない。

人間の選択的な交配により、進化の方向性とは関係なく形質が大きく変わることは様々な家畜で実証されている。

そしてまた、最近は、動物自身も人間に選択されやすいよう順応すること、そしてそのスピードは想像以上に速いこと、などが家畜化されたキツネなどの事例から推測されている。

とはいえ、チワワに代表されるペット犬の小型化はやや異質だ。小型化や小型犬が全て問題などと言うつもりは毛頭ないが、近年の小型化の過程では、骨格や内臓などに重い障害や負担をかけるなど、無理のある事例が少なからずあったと聞く。

sakamoto_masaru

坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生。東京大学卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (数え歳70代チーム)にて現役続行中)

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..