サステナビリティ人材の育成におけるメディアの役割

企業と社会フォーラム(JFBS)第9回年次大会
サステナビリティ人材の育成におけるメディアの役割とは

学会「企業と社会フォーラム」(JFBS)は、2019年9月5~6日、「サステナビリティ人材の育成と経営教育」を統一テーマとする第9回年次大会を、B Corp Asiaの協力のもと早稲田大学で開催しました。

大会2日目(9月6日)に行われたBreakout Session Organized 4「サステナビリティ人材の育成におけるメディアの役割」では、はじめに司会の牛島慶一氏(EY新日本有限責任監査法人 気候変動・サステナビリティサービスCCaSSリーダープリンシパル)から、登壇者の倉持裕和氏(朝日新聞社 CSR推進部次長)、木幡美子氏(フジテレビジョン 総務局CSR推進室部長)、堅達京子氏(NHKエンタープライズ 制作本部情報文化番組エグゼクティブ・プロデューサー)の紹介が行われ、本セッションでは新聞社、民間放送、公共放送の三社それぞれの視点から、メディアと市民との関係において期待される「メディアの役割」を立体的に捉えたいとの趣旨が説明されました。

本稿では、各社の取り組み内容およびセッション参加者を交えて行われた議論の概要をご紹介します。(JFBS=笹森友香)

■倉持裕和氏(朝日新聞社)

「ともに考え、ともにつくる」を企業理念に掲げる同社は、2004年に日本のメディアとして初めて「国連グローバル・コンパクト」に署名し、2018年にはSDGs(持続可能な開発目標)推進のために国連がメディアに呼び掛けた「SDGメディア・コンパクト」の創設メンバーとなりました。また、SDGsへの理解を広めていくために、2017年1月より「2030 SDGsで変える」というキャンペーン企画を開始しました。

このキャンペーンではキャスターの国谷裕子氏をナビゲーター役に起用し、2013年から国連経済社会局事務次長補としてSDGsの採択に関わったトーマス・ガス氏や、国連事務総長の特別顧問等を歴任し、SDGsの策定にも関わったコロンビア大学のジェフリー・サックス教授らへのインタビューを通じて、皆で地球の未来を「新しいものさし」で考えることを目指しています。また、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)に加盟する企業のトップへのインタビューでは、SDGsをどのように企業活動に取り入れ、持続可能な営みにしていくのかを語っていただいている、と説明しました。

さらに、人口減少や産業衰退等の課題を抱える国内の地域の取り組み事例として、島根県海士町が進める地域産業のブランド化と教育の魅力化や、北海道下川町の森の恵みを生かして町を再生する循環型の森林経営について紹介しました。

その上で、従来型の紙の新聞ではどうしても伝えられる情報量が限られてしまうことから、朝日新聞デジタルや朝日新聞GLOBEといった様々な自社メディアを活用して多角的に情報発信を行うことで、地域が抱える課題の背景や実践までのストーリー、町民インタビュー等を写真や動画を用いて詳細に紹介することができ、物事を多重的に報じることが可能となる、と説明しました。

また、同社で最も大きな国際シンポジウム「朝日地球会議」は、国内外から招く政治、経済、科学技術分野の有識者や、第一線の研究者等による講演やセッションを繰り広げ、皆で持続可能な社会の実現への解決策を探り、SDGsへの道筋を話し合う場として開催していると述べました。

続いて、社内の人材育成、社員の意識向上を目的とした取り組みについて、「社会・地域貢献」「読者・顧客満足」等を通じてグループのブランド価値向上に貢献する活動等を対象とする社内表彰制度「CSR推進賞」や「SDGs大賞」を紹介し、これらにより社内でSDGsに紐づいた活動が盛んになっていることを示しました。

最後に倉持氏は「NIE:Newspaper in Education(教育に新聞を)」を紹介し、同社の社員や記者が小・中・高校の教室に出向いて新聞を教材とした授業を行い、児童・生徒達の学力と考える力の向上を図ることを目的に活動していると述べました。

中でも「新聞マッピング・ワークショップ」では、SDGsの観点で記事を読み、個人の思考を可視化した後、グループ内で発表してそれぞれの意見や考えを共有することで、一つの記事でも複眼的な思考や課題解決に向けた様々なアプローチに気付き、多角的なものの見方へと繋がることが可能になると説明しました。このような活動を通して、同社では未来を担う子供達の育成を支援していることを報告しました。

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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