EUの環境政策の原点は「リスボン戦略」
こうしたEUの環境に対する積極性の原点は「リスボン戦略」にある。同戦略は2000年3月にポルトガルの首都リスボンで開いたEU首脳会議で採択された。2010年をターゲットとする長期的な経済・社会改革戦略で、知識経済への移行や貧困克服・完全雇用実現のほか、域内エネルギー・環境産業の振興という大きな柱があった。
そして「リスボン戦略」が生まれた背景には、米国や当時の日本(現在は中国)などの大国との競争に敗れるかもしれないという危機感と、「生き残り戦略」があった。
そもそも1993年のマーストリヒト条約で現在の形になったEUの加盟国は、最大人口のドイツですら8000万人強で、ベルギーやオランダなどは1000万人台と、東京都の人口とさほど変わらない。小国の危機感は欧州の歴史の中で常に為政者に受け継がれてきた。
さらに、欧州は石炭を除いて、石油やウランなどのエネルギー天然資源がほとんど取れない。つまり太陽光や風力など再生可能エネルギーの開発・普及に先んじれば、世界のエネルギー経済のトップランナーになり、先行者利得が得られるという思惑があった。
他国に先んじることが自地域の成長につながる
環境政策やエネルギー政策で他国に先んじることが自地域の成長につながるーー。これが「欧州の本能」である。そもそも欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)はEUの原点であり、欧州原子力共同体も欧州経済共同体(EEC)とともに設立されたことを考えると、欧州でエネルギー問題がいかに重要なテーマであったことも分かる。
ちなみにEUは環境戦略だけでなく、CSR(企業の社会的責任)をEU全域共通の課題として掲げ、「欧州CSR戦略2011~2014」「欧州CSR戦略2015~2019」と継続的に域内でのCSR推進を進めてきた。
実はこれも競争政策の一つで、CSRに正面から向き合う企業は社会的なリスクを減らすことで競争力が高まり、こうした企業が増えれば地域の競争力も高まるという強固な信念に基づいている。
欧州グリーンディール宣言においては、次の言葉が印象深い。すなわち「グリーンエコノミーにおいて革新を起こし、グローバルリーダーになるための業界支援をしていく」との意思表明だ。
グリーンリカバリーも、SDGsも、パリ協定もほぼ同じ